Leadership Insights / 高橋 俊介
高橋 俊介  Shunsuke Takahashi
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授



1978年東京大学工学部航空学科を卒業し日本国有鉄道に入社。 1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を終了し、マッキンゼーアンドカンパニ-に入社。東京オフィスのコンサルタントとして、顧客の大手日本企業の事業戦略策定や組織設計に従事。 1989年に世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ワトソンワイアット株式会社)に入社。 1993年に同社代表取締役社長に就任。主に大手日本企業、ベンチャー企業や外資系企業の人材ビジョンの策定、成果主義人事制度や自由と自己責任に基づく人材育成施策の企画、導入に携わる。 1997年7月社長を退任、個人事務所を通じて、コンサルティング活動や講演活動を行う。2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。 個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発についての研究に従事。2011年11月より現職。

近年、組織の人材育成力が弱体化しているという課題は多くの日本企業で認識されつつあります。このような状況の中、上司や管理職が部下の育成にもっと積極的にならなければいけないというお考えを人事部の方などから課題として伺うことも多くあります。筆者は、その考え方自体は間違っていないが、問題は方法論にあると考えています。上司の役割は、部下一人ひとりを自分が直接的に育てるというより、育つ環境を作ってあげることなのではないかといいます。管理職としては、自分も含めた職場全体のコミュニケーションフォーマットのデザインが重要な役割になってきます。育つ環境とは、また、職場全体のコミュニケーションフォーマットとはどのようなものなのでしょうか。
 
筆者は以前からピラミッド型組織対自律型組織という枠組みで組織論を展開してきました。洋の東西を問わず多くの組織で課題となっているのは組織の自律性向上です。筆者が考える理想的な自律型組織のイメージとして提唱しているのは“サッカー型組織”で、メンバーが特定の戦略という抽象性の高いメッセージを共有することで自身の状況判断で動くことになります。しかしながら、そのような組織ではリーダーの抽象的メッセージ伝達能力が問われます。特に、前提となる文化が異なるグローバル環境では、この能力が大きく問われることになるのです。
 
欧米でも日本でも、右肩上がりではなくなってしまった変化の激しい時代に、企業とそこで働く人双方の持続可能性の両立はこれまでの人事の考え方の延長では難しいことが明らかになりました。そろそろ人事が経営の勉強をしっかりとして経営の言葉で人事を語り、どのような形で人事が優位性構築のために力になれるのかを人事から発信し、仕掛けていくべきだと筆者は言います。変化の激しい時代に人と企業の双方の長期の持続可能性を創造する、他社との違いを生み出すような組織ビジョン、人材マネジメントビジョンを考えるときなのではないでしょうか。
 
今年の大学新卒の内定率は、就職氷河期を下回っていると言われています。ところが一方で新卒の有効求人倍率は就職氷河期時代より大分に高いようです。この状況から、アンマッチ問題が深刻化してきているのではないかと筆者は考えています。その中でも目立つのは、「何がやりたいのかわからない」と就職活動自体のモチベーションが高まらず、求人企業があっても就職活動そのものからドロップアウトしてしまう学生の姿です。より深刻な問題は、「やりたいことが見つからない」という理由で就職しない人が増えていることなのです。
 
種の起源を著したダーウィンは「生き残るのは強いものではない、変化に対応できたものが生き残るのだ」と言っています。人間はその変化対応能力の高さから現在のような繁栄にいたったと言っても過言ではないでしょう。企業においても、経験から学ぶ、学びを共有することは変化対応能力の中核となるものです。しかしながら経験から学ぶ能力が低い人も少なくありません。筆者は個人が頭の中で仮説検証のサイクルをまわし学習するだけでなく、それを組織で共有する仕組みが重要であるといいます。その仕組みを推進することがリーダーの重要な役割なのです。