Leadership Insights / サービス業化する日本の人材育成 - 感受性と応用力を育てる人材育成

サービス業化する日本の人材育成 - 感受性と応用力を育てる人材育成

(2014年01月23日)

言うまでもなく、日本をはじめ先進国の産業構造は高度にサービス業化しつつある。21世紀になって、日本で唯一雇用数が大きく伸びた産業セクターは医療介護である。言うまでもなく高齢化社会と介護保険の誕生で、介護が家庭内労働から広く産業化した結果である。クールジャパンやインバウンド観光促進、そしてIT業界でもサービス業化が急速に進んでいる。

日本の高度成長を支えた輸出型製造業の大企業は、今も影響力発言力は極めて大きいが、雇用数という意味で、特に若年者雇用を支えるという意味では、往時の勢いは全くない。一方で介護、観光、飲食、IT、新しい小売などの新興企業などには、いわゆるブラックと呼ばれる早期の高い退職率、人材使い捨てといった問題が取りざたされている。

私の印象では、そのようなこれからの雇用を量的に支える産業の多くの企業、特に新興企業中小企業は、人を使い捨てにしようと割り切っている確信犯企業というより、経営者がどうしていいかわからない、結果ブラックに見える企業が多いと思う。一つの大きな背景に、サービス業の人材育成人材マネジメントが、日本では特に、輸出型製造業などに比べてノウハウ不足、未発達ということがあるように思う。

日本はそもそも外国に比べて、製造業とサービス業、大手企業と中小企業の賃金格差が大きく、若年者離職率なども差が大きい。いわば雇用の量を支える新サービス業の雇用の質が低いことが日本全体の課題でもあるわけだ。サービス業の非正規比率の高さを指摘する声もあるが、サービス業はどこの国でもパートタイム比率が高く、日本だけの問題ではない。しかしフルタイムとパートタイムの賃金格差は、日本のそれと欧州とを比較すると、日本はかなり大きい。

非正規が悪いというより、日本の場合正社員と比べてあまりにも非正規の雇用の質が低いという言い方もあると思う。同一労働同一賃金も日本はザル法と言っていい状態だ。

それではサービス業の雇用の質を上げる人材育成のポイントとは何か、私はそれは感受性と応用力の開発がその大きな課題の一つと考えている。自動車のような物つくりでも、はるか昔は職人の手作りに近く、米国に100社以上の自動車製造会社が乱立した時代もあったらしい。それが分業とベルトコンベアの登場、有名なT型フォードの登場で、仕事内容は大きく変化した。大型製造業で起こったことは、専門性と仕事の個別性がどちらも中程度の職人の仕事が、分業工場のワーカーの、専門性も個別性も低い仕事、逆に言えば両方低くすることで賃金や生産性を上げてきた一方、設計技術者のような専門性と個別性が両方かなり高い仕事に二極分化してきた。

一方でサービス業はどうだろうか。鉄道のオペレーションは、蒸気機関車の時代は職人的要素に依存する部分も少なくなかったが、電車となり、それも交流モーターで、ATCからさらにはATO制御となり、工場のような二極分化が起きている。流通でも戦後チェーンストア理論に基づく、本部と店舗の役割分担は、そのまま仕事内容の二極分化を目指したものであった。ある意味サービス業の製造業化が進み、人材育成も製造業的な発想が大いに役立った部分もある。

しかし鉄道や小売りはオペレーションの現場が地理的に散らばっている。3.11の時に明らかになったように、通信も遮断された中で、各地に点在する運転手や店長は、自分たちの判断で顧客を高台に避難させたり、店を地域住民に開放する判断を求められた。サービスは商品をストックしておけない、顧客背店の現場で事件が起こる、それも地理的に散らばっているという特性から、いくら製造業化させても、想定外事態の判断をどうするかといった人材育成上の問題は起こる。

福島第一原発事故の時に明らかになったように、組織の意思決定は原則として3つの要素の重なりを作るのが基本である。つまり意思決定に必要な情報、意思決定できる専門的知見と判断能力、そして意思決定できる権限である。権限を持つのは専門家と情報が薄い本社、正式な権限さえないのに介入する首相官邸、現地情報を持ち、原子力についての知見も最も豊富な指揮官のいる現地、この軋轢が問題となったわけだ。

一般論としては現場情報が豊富な現地に権限委譲するためには、現場以外の重要情報の共有の仕組みに加えて、判断能力開発という人材育成投資が重要である。逆に情報と能力を集中させた指揮所を作ってそこに権限を与えるというやり方も可能である。

しかし今議論している雇用の量を支えている、いわば新サービス業の多くは、それ以上にはるかに個別性の高い仕事が多い。専門性と個別性の両方高い、例えば医師のような仕事も数はそこまで多くなくても重要だが、一方で専門性はそこまで求められないが、個別性は高い看護師、さらには介護士、そして観光飲食などのホスピタリティービジネス、そしてカスタマーサポートのコールセンターなどの仕事がきわめて多い。そもそもストックが出来ず、場所(コールセンターやEコマースなどは除く)と時間をこちらが管理しにくい、顧客接点での個別性に対応した価値提供が基本のこれらの業務では、高い専門性と高水準の報酬ではないが、非正規社員まで含めて極めて多くの人たちが個別性への対応能力を求められる。

いうまでもなく個別性への対応能力とは、感受性と応用力なのだ。ところが最近の若者には、違う世代など異なる人たちとの関係性構築に難のある、いわゆる社会性の低い若者が増加、そしてさらなる正解主義教育と、IT検索機能の発展で、自分で考えずに正解を欲しがる「カーナビ症候群」が蔓延している。まさに感受性と応用力の危機なのだ。まずは非正規含めた若者たちのこの二つの能力をいかに高めるかが、サービス業化する日本企業の重要な課題なのだ。

それではこれはどうすればいいのか。これらの普遍性の高い基本的な仕事能力は、インプットもさることながらアウトプットと組み合わせる、つまりそのスキルを何度も使ってみることが重要となる。

あるリゾートホテルのマネジャーが行った、「お写真撮りましょうかコンテスト」、つまり一定期間のゲームにした取り組みなどがわかりやすい。写真を撮って欲しいと推測できるお客様を見つけて声をかけるが、喜んだら勝ち点3、いいですと言われ、つまりチャレンジしたが判断ミスだと引き分けの1点、写真撮ってくださいと声をかけられたら、気づけなかったので負け点3というものだ。それを通じてトライすることで、先に気づいてサービスするホスピタリティーを学べというものだ。

もう一つ重要なのは、基礎理論や歴史的背景などの背景情報の理解だ。特に応用力のベースになるのは、基礎理論と歴史的背景など、背景情報の理解だ。この店では大根を昔からそうやって切っているというのではなく、料理の科学とその店の歴史からそうなってきたことを理解させないと、客の好みが変わったり、別の場所の店で水の質や硬度も異なった時、同じ質を再現できない。

こういう意味では、いわゆるタテ型OJT、つまり先輩上司が後輩部下を教える、いわば正解の伝授型の伝承的OJTでは極めて不十分ということだ。NHKでドクターGという番組にもなった、医師のカンファレンス方式の育成などのような、内省型の育成や、エアラインのCAのフライト後の経験共有のデブルーフィングといった横のOJTが重要になる。

顧客接点サービス業だからこその人材育成ノウハウを高めていけば、非正規社員のレベルアップ、顧客接点競争優位性の確保に加えて、これからは明らかに顧客接点人材の確保難が強まるときの人材の定着率改善、それらを通じての生産性と顧客基盤の強化につながると思う。そもそも顧客接点型サービス業は、ものつくり同様日本人にはとても向いていると思う。若者の感受性と応用力開発への取り組みが、サービス業の雇用の質と日本の競争力を改善することは間違いない。

高橋 俊介


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コメント (3)

匿名:

石頭:
最近問題となっている冷凍食品製造企業での問題、世界的な医薬品企業の臨床研究問題をこの人材育成の解説の方法で切込みを入れてみると、日本の人材育成が長引いた不況、デフレ経済を生き抜くために、正しい表現かどうか批判はあると思いますが、企業利益確保=正義に基づいた、適者生存の論理で形成されたように思います。多くの日本企業が国際化やイノベーションへのチャレンジをしていないとの指摘はありますが、そのようなことも含めて、人材育成が未熟であることを気付いている人は多いのでしょうか。その点を含めて、問題を指摘されたコラムとして読んでおります。

匿名:

石頭:
最近問題となっている冷凍食品製造企業での問題、世界的な医薬品企業の臨床研究問題をこの人材育成の解説の方法で切込みを入れてみると、日本の人材育成が長引いた不況、デフレ経済を生き抜くために、正しい表現かどうか批判はあると思いますが、企業利益確保=正義に基づいた、適者生存の論理で形成されたように思います。多くの日本企業が国際化やイノベーションへのチャレンジをしていないとの指摘はありますが、そのようなことも含めて、人材育成が未熟であることを気付いている人は多いのでしょうか。その点を含めて、問題を指摘されたコラムとして読んでおります。

匿名:

Acontece Dr. que a imprensa nao é competente o suficiente pra vender seu produto final com boas noticias,e fazem de um mahhucadinco com espingarda de pressao (Sim machucadinho porque se fosse grave ele nao sairia tao rapido e nem anadndo normlmente como saiu do hospital) um ferimento grave como se fosse uma escopeta,nao seria diferente com o Adriano.

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