Leadership Insights / 沖縄における企業内人材育成推進の取り組み

沖縄における企業内人材育成推進の取り組み

(2013年05月15日)

これから社会に出ようとする若者、そして彼らの家族も含めて、会社で働くこと、そして社会全般に対して、信頼感が薄まってきている。これは沖縄ばかりでなく日本全国で、就職活動に関わる多くの専門家が感じている。人を使い捨てにするブラック企業に関するうわさがネット上などで流布され、学生は疑心暗鬼になる。さらにリーマンショック後の内定取り消しなどのできごとから、学生が企業を信頼せず、それにより企業の内定辞退が増え、企業が学生を信頼できなくなるという悪循環は、社会に出てからの大事な初期キャリア形成に悪い影響を与える。

人材使い捨て企業を減らし、働きがいのある企業を増やすことが一番大事なのだが、その結果として若者やその家族が、働くという部分での社会システムへの信頼感をもつこと、そのためにも会社も働く人に信頼感をもち、その相互の信頼感がベースとなって、会社ばかりでなく地域のそして日本全体の財産としての人の成長が、働くことを通じて実現できる。

私は5年ほど前から沖縄県の雇用問題やキャリア教育に関わってきた。その中でサービス業中心、中堅中小企業中心のこの地域では、輸出型製造業の大手企業のような、特定企業内での人材抱え込みによる長期の育成に頼ることは難しい、各企業が働きがいがあり、それを通じて成長できる職場であることで、地域としての人材が成長するというモデルを、地域として実現していくことが求められると考えてきた。

日本全体がサービス業化し、過去の日本の成功体験である輸出型製造業の大企業での人材育成や雇用安定が崩れてきている。もはや製造業の大企業を地域に誘致しても、質の高い雇用が実現されなくなってきている。キャノンの大分やシャープの亀山の例を挙げるまでもなく、グルーバル競争にさらされる大手製造業の現場は、大きな変化に振り回されている。製造業の雇用の質が高くサービス業のそれが低いという考え方はもはや成り立たない。

一方で製造業に比べると、今でもサービス業の人材育成や生産性が劣っている、その結果退職率や所得水準もまだ差が大きいのも事実である。サービス業主体になっている日本で、特に中堅中小企業オーナー企業中心の地方では、雇用の量と質を確保するには、企業の人材育成能力を上げることで、早期離職を防ぎ、生産性を上昇させ、賃金水準も上昇させる、そして地域でサービス産業人材が育ち蓄積される循環が求められている。直接的な雇用支援策では問題の根本は解決しない。

2012年度、幸運にも一括交付金を活用して、沖縄県の事業として私が以前から提案してきた県内企業雇用環境改善事業、平たく言えば沖縄の県内企業の企業内人材育成力強化の支援事業、その中でもまずは人材育成企業の要件の整理と企業内人材育成推進者の養成講座が実現した。

まずサービス業中堅中小企業を主として想定した、働きがいのある、人の育つ企業の要件を整理することができた。一方で合計で100時間近い人材育成推進者養成講座には、当初想定定員50名の倍以上の140名近い応募があり、最先端の包括的な人材育成ノウハウへの関心とニーズの高さが実証された。講師のほとんどは東京から最先端の専門家を招聘した。公的な事業の厳しい条件でご協力いただいたインヴィニオの土井社長、慶応大学キャリアラボ代表の花田教授、タワーズワトソンの川上さんや、企業事例でご登壇いただいたスターバックスコーヒーさんやサイバーエージェントさんには心から感謝している。

この養成講座は、長期長時間にわたり、業務の調整等相当の努力が求められるなか、中小企業の場合は経営者自身、中堅企業でも管理職クラスの方々の参加が中心で、ほとんどの参加者が修了要件を満たすばかりでなく、熱心に講座に取り組んでいただいたことは、何よりの成果だったと言えるだろう。

3月8日の企業事例演習の最終報告会には、9社のクライアント役企業の経営者においでいただき、予想以上の質の高い提案内容とプレゼンテーションに、驚きの声、感謝の声、そしてなによりすぐにでも提案を実施したいという行動への声が多く聞かれ、白熱した内容となった。

典型的に多く報告された県内企業の課題としては、1)課長などのミドルマネジメント層が育っていない、期待役割が不明確で単なるプレーヤーとして働いており、人材育成に貢献していない、2)個人として熱心に働く社員はいるが、部門や組織間の連携や協力が出来ず、意欲の高い社員の努力が空回りしている、3)ビジョンなどのメッセージが社員全般に伝わらず、受け身の社員が多く、やらされ感が蔓延し、経営者の熱意が空回りしている、4)アルバイトや一般社員が、今の仕事や職場には満足していても、成長が不十分のため疲弊して退職率が高い、といったものが見られた。

それらの問題提起に対して、1)管理職の役割や職能要件を外から制度として記述してもらうのではなく、管理職や社員自身が集団的対話手法に参加して作り上げる、多面フィードバックで管理職自身が求められている役割と自身の現状とのギャップを気づき行動変容してもらう、2)ダイアログマットを活用して、異なる部門の人たちでベクトル合わせをし、連携アイデアのコンテストを行う、他の部門の仕事を体験し、連携課題を提言する、3)日常的なフィードバックのためのカードやボードなどのツール活用、ビジョンと具体例を結ぶダイアログマットの活用、4)成長ステップの可視化とそのツールを用いた育成面談といった、養成講座で学んだ様々なツールや考え方が生かされた内容の提案が多くなされた。

次のステップとして、まずは養成講座の継続による人材育成推進者の数の確保が重要である。これは当初応募された多くの方が、今回機会を得られなかったことの対応であることもさることながら、人材育成を本県のトレンドとして定着させるための量的な拡大としても必須である。今回すでに60名の規模は、沖縄県における新しい人材育成のうねりの始まりを予感させるものが感じられた。さらには同じ思いと同じ専門知識を共有する人材育成の仲間、いわば沖縄県の人材育成ソサエティーともいえるネットワークを構築し拡大していくことが重要で、そのために今期の講座参加者のフオロー、ネットワーク化が必要となる。

さらにより多くの企業がこの流れに参加し後押しすべく、企業による沖縄県人材育成協議会のようなものが立ち上がることが望ましいであろう。九州地区では10年前からKAIL(九州・アジア経営塾)というNPOが主体となり、地域の経営人材を育成すべく、毎年九州の地域企業から40名近くの経営人材候補が派遣される、合計220時間に及ぶ研修プログラムを運営している。すでに九州を代表するような企業や自治体で続々卒業生から幹部が誕生している。これは地元九州を代表する企業の懇談会である7社会と呼ばれる組織、その中でも特に九州電力が音頭を取り、JR九州や西鉄など他の企業も参加してこのNPOが設立され、多大な資金と人材が7社会より投入されたことで可能となったプログラムである。

そしてさらに次のステップ、目指す最終段階は、冒頭でも述べた、働き人たちと企業と社会の信頼関係の構築である。その一つの手段として、働きがいのある会社の、規模によらない社会的な可視化である、人材育成企業認定制度などが考えられる。本人も家族も安心して沖縄県を支える産業に就職し、そこでの働く経験を通じて人間として成長していく、それが沖縄の産業基盤と雇用基盤の強化につながるという良循環を目指す、それがこの事業の趣旨でもある。前述の人材育成協議会に参加する企業の中から、そのような人材育成企業認定される企業が多く輩出される、そしてそのような認定を受けた企業は、様々な形での恩恵やメリットが得られるようになれば、ますます多くの企業が積極的に協議会に参加し、認定企業を目指す良循環ができるだろう。

全体で4年の事業の1年目が修了したところだ。このような地域発の企業内人材育成支援の試みは、沖縄以外でもどんどん取り組まれたらよいのではないかと考えている。さらには人材育成企業認定制度が日本全体の制度になるような流れになれば、就活アンマッチ問題や若年者早期離職問題、さらには社会、会社、個人、家族の信頼の連鎖の再構築につながれば素晴らしいと思う。

高橋 俊介


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