孫子の兵法


孫子の兵法(『孫子』)
孫子の兵法は、中国春秋時代(紀元前500年ごろ)に、思想家孫武によって書かれたとされる兵法書のことをいう。戦略論としての評価は非常に高く、クラウゼヴィッツの戦争論と並び、東西の二大戦争書とも呼ばれている。
「孫子の兵法」は軍隊の配置、戦術の実施などを取り上げた兵法と謀略の極意の集大成であり、中国の歴代の武将だけでなく、日本でも鎌倉時代、戦国時代の武将の必読書であったし、ナポレオンも「孫子の兵法」を学んだとされ、現在でもアメリカ軍で軍事における教科書として参照されるほど影響力が高い。ビジネスにおいても幅広く活用されており、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツが愛読していることでも知られている。
正式には「孫子」は書物の名称を指す。又著者の孫武の事を孫子という事もある。以下の文中では書物のことは「孫子の兵法」と表し、孫子と表記するときには孫武その人を指す事とする。
孫子は、紀元前500年ごろ、中国春秋時代に呉国に仕えた名将軍で、呉国の発展に大いに貢献した人物である。「孫子の兵法」以前においては、戦争の勝敗は大きく天運に左右される、という考え方が主流だったが、孫子は過去の戦史研究を行う事で、共通性のある軍事法則をまとめた。つまり、戦争の勝敗には様々な法則や理論的な根拠が影響している、ということを明らかにした点が、「孫子の兵法」の大きな歴史的意義である。
■特徴
1.戦争は国家の重大事なので、軽々しく始めるべきではない
2.情報収集と分析による綿密な情勢判断が重要である
3.不敗の体制を取り、勝算のある戦略構想を練るべし
4.戦略構想を実現する為に効率的な戦略計画を立て、実行せよ
孫子は戦争を極めて深刻なものであると捉え、国民の生死、国家の存亡に関わることであるから、よく考えるべきである、という非好戦的な思想を持っていた。これは、戦争という事象を一つの出来事として捉えるのではなく、国家運営と戦争との関係を俯瞰する姿勢から導き出されたものである。
■「孫子の兵法」の戦略
孫子は、戦争を行う際、事前に敵味方の実情を詳細に比較・分析し、充分な勝算が見込める時にのみ兵を起こすべき、と考えた。具体的には以下の「五事」「七計」の事柄を比較検討する。
【五事】
道 (為政者と民が一致団結するような政治や教化のあり方)
天 (天候などの自然環境)
地 (地形)
将 (戦争指導者の力量)
法 (軍の制度・軍規)
【七計】
1.敵味方、どちらの君主が人心を把握しているか
2.将軍はどちらが優秀な人材か
3.天候・地形はどちらの軍に有利か
4.軍規はどちらがより厳格に守られているか
5.軍隊の能力はどちらが強力か
6.兵隊の訓練は、どちらがより行われているか
7.信賞必罰はどちらがより明確に守られているか
勝算がある際には迅速に行動し、戦略行動を実際の戦闘行動に落とし込み、戦闘後には再び情勢を確認し、検討する。言ってみれば、全ての戦争行為を計画・実行・検証のサイクルでオペレーションを回転させることが「孫子の兵法」の基本概念と言える。普遍的な理念、基本原則であるからこそ、ビジネスにおいても参考になることが非常に多い哲学書であると言える。
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