クラウゼヴィッツの戦争論


クラウゼヴィッツの戦争論(Von Kriege)
クラウゼヴィッツの戦争論(Vom Kriege)は、ナポレオン以降の近代戦争というものを、初めて体系的に研究し、戦争と政治の関わりを包括的・体系的に論述している。世界的にも東洋における孫子の兵法と並んで古典的な名著として名高い。
1832年にプロイセンの軍人だったクラウゼヴィッツ(Carl V.Clausewitz)が著している。
それまでの「戦争」は、貴族の軍隊同士の戦いがメインだった。しかしナポレオンの登場によって、「戦争」が国民的軍隊同士の戦いに代わり、国家を挙げての総力戦と大きく変化していった。クラウゼヴィッツの「戦争論」はそうした時代の変わり目の中で、戦争と政治の関わりを科学的に分析して考察しているところに、これまでの戦術書との大きな違いが見られる。
「戦争論」が執筆されたフランス革命後のヨーロッパの状況と、現代の日本ビジネス環境とは、既存の競争秩序が大きく変わる変革期という点で大きな共通点がある。「戦争論」は、戦争について書かれた著作だが、激動の時代における意思決定論として、現代のビジネスにおいても共通項が非常に多く、参考になる部分が多い。
■戦争とは?
「戦争とは、政治目的を達成する為の手段である」
クラウゼヴィッツによれば、戦争は他の手段を持って行う政策の一部、つまり戦争行為は政治目的を達成するための手段である。他の手段=暴力を用いて、自分の意思を相手に強制するが、勝敗は偶然に左右される、と言える。
■戦略とは?
クラウゼヴィッツは、「戦争とは完結した個々の戦闘の集合体である」と定義し、「戦術=個々の戦闘を計画し、個々の配慮で遂行すること」、「戦略=戦争の目的に則して、個々の戦闘を束ね、統制するもの」と定めた。つまり、「戦術=武力の使い方」であり、「戦略=戦闘の使い方」と分類できる。彼はまた、戦略は、その場で細部を決定したり、計画全体に修正を施すことを可能にするために、必ず現場で策定されるべきと説いた。
言い換えると
戦争: 不確実な状況で暴力によって、政治目的を達成すること
戦略: 偶然を制し、政治目的を達成する為の継続的な個別の戦闘の運用・進め方
ということになる。
■ビジネス上の競争とは?
クラウゼヴィッツの考え方を現代ビジネスに置き換えると、
「競争(戦争)とは、経営目的(政治目的)を達成するための手段である。」
戦争における暴力の代わりに、ビジネスでは競争手段(商品・サービス)を用いて経営目的を達成するために競合他社と争うが、勝敗は偶然に左右される、となる。
言い換えると
競争: 不確実性を制して、商品・サービスなどの競争手段によって、経営目的を達成すること
戦略: 不確実性を制して、経営目的を達成するために実行する継続的な競争手段(商品・サービス)の運用と進め方
と言い表せる。
■リーダーの存在
戦争に勝つ為には、優れたリーダーの存在が不可欠である。クラウゼヴィッツによれば、戦略の天才とは、複雑で不確実性の高い環境下でも、常に最適な戦略を的確に見抜く能力をもつ人のことである。優れた戦略を策定するには、両極端の選択肢を論理的に考える高度なアプローチと、勇気や決断力を兼ね備えたリーダーが必要だと言っている。いわば、優れた指揮官に求められる独特のセンスとでも言うべきもので、クラウゼヴィッツは、武徳、勇敢、忍耐力、自制心などを特に重視した。クラウゼヴィッツが念頭に置いたリーダー(天才)とはもちろん、ナポレオンのことである。
ビジネスの世界に置き換えると、この考え方はカリスマ的リーダーシップ理論の考え方に近い。型にはまったこれまでの理論にこだわるよりも、天才が現場で発揮する能力を高く評価するのである。高度な戦略策定能力はリーダーとして必須の資質だが、実際にはそれを運用する人物の、個々の現場における決断力、意思決定が最優先されるべき、とクラウゼヴィッツは説いている。
■基本原則
クラウゼヴィッツは、戦争の計画を全体的にカバーし、かつ、あらゆるものの指針として役立つ基本原則を2つ挙げている。
原則1 攻撃を出来るだけ集中的に行う事
原則2 出来るだけ迅速に行動する事
ビジネスの世界に置き換えると、自社の強みに集中し、特化していくこと、そして可及的速やかに行動を起こす事、となる。
戦略とは、言ってみれば、勝てる喧嘩しかしない、ということである。従って、どういう喧嘩なら勝てるのかを真剣に考える事が戦略策定の基本となる。自社の常識、業界の常識を全て取り払い、ゼロベース思考で徹底的に洗い直すことが有効となる。
■関連用語