自分を信じる居直りから流儀は生まれる


NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組がある。
番組に登場するプロフェッショナル達は、決して最初から天性の才能を活かしバリバリ活躍していた人ばかりではない。むしろその多くが、なかなか結果が出せず、逆風にさらされたり、暗闇の中で悩み苦しんだりした経験を味わっている。そういう中で「自分は一体、本質的に何者なのか、何がしたいのか」「自分がやっている仕事の本質は何なのか」について「自分なりの結論を下す」ときが来る。この時こそ、「流儀」に目覚める瞬間なのだ。
しかし、いざビジネスの現場を見ると、日々取組んでいる仕事について、自分の「流儀」とはどういうものかを明確に捉えていたり、「流儀」を確立しようと自覚的に考えていたりする人はそれほど多くないように思う。要は、迷っている感じがするのである。
私は様々な業界の様々な世代の人にインタビューを行っているが、「ああなるほど、この人は自分の信念が固まっていて、特徴を活かしきる『流儀』を確立しているなあ」と思える機会はそれほど多くない。
では私たちは、いかにして自分の「流儀」を確立していけばよいのだろうか。
身もふたもないことを言うようだが、ポイントは「自分の本質的な動機を知ること」「動機との相性が良い仕事(の仕方)をすること」「自分の本質・仕事の本質に対する自分の理解を信じ、この流儀で行くのだと居直ること」の3つだと思う。
最近行ったインタビューを具体例として紹介したい。対象者はある法人向け不動産仲介業のトップ営業マンA氏。まさにプロフェッショナルという人だった。
インタビューを行って見えてきたA氏の動機は次の3つだ。
① 相手が強ければ強いほど燃える、絶対勝ちたいという「競争欲」
② 自分の思うように相手を動かしてみたいという「影響欲」
③ 即座に意思決定・行動を起こさないと気がすまない「切迫性」
では、A氏はどうやってこれらの動機がどう行動や成果に結びついているか。
まず①について。競争は相手や勝ち負けがはっきりしているほど自然とやる気が燃えてくる。業界の商慣習として、その案件の受注を競っている競合がどこかは必ずしもわかるわけではない。しかし競争心にあふれたA氏はどうしても戦っている相手を知りたいので、競合の社名はもちろん、その競合の「○○さん」という個人名がわかるまでクライアントや業界関係者に探ってみるそうだ(ちなみに業界広しと言えども、A氏が認めるライバルの人数は10人程度らしい)。そして「今回の相手はB氏だ」ということがわかる、あるいは察しがついてくると「B氏に勝ちたい」という闘争心にメラメラと火がつく。その後は絶対に勝つために、将棋の名人戦の如く、B氏の出方を徹底的に読み、どうすれば勝てるかを徹底的に考え抜く。これらの行動はA氏の動機にかなっているので、本人としては無理している様子もなく、ごく自然に行っている。
次に②について。競争とは別に、A氏が仕事をやっていて非常に充実感を感じるのは「自分の描いたシナリオ通りに顧客が動いてくれたとき」だそうだ。「自分がここでこう動くと、あの人はこういう意思決定や行動を起こし、そうするとあの人はこう動いて・・・」といったシナリオがドンピシャになるときはたまらなく気分が良いらしい。シナリオを描くためには、登場人物(顧客だけではない)のニーズ、組織力学、個人的な性格、置かれている立場といった様々なファクターを知り尽くす必要がある。そのために、A氏は顧客であれ関係業者であれ、日々のコミュニケーションを通じた徹底マークを怠らない。これももちろん、動機に適ったごく自然な行動としてである。
最後に③について。A氏はおそらく、良い意味で非常にせっかちだと思う。日頃の関係者とのコミュニケーションの中から「これだ!」というチャンスを見つけたら即座に意思決定し、行動に移さないと気がすまない。インタビューをしていて私の脳裏に「秒殺」という言葉が浮かぶほどのスピード感だ。このスピード感は、この業界での顧客の購買意思決定パターンを考えると、非常に合点がいく。
つまりA氏は自分の動機を満たすために、「敵(競合)を知る」「顧客を知る」「スピーディーに動く」という行動をごく自然にとっているわけだが、その行動が実はことごとく自分のビジネスの成功要因につながっている。しかも成功体験が積み重なっているため動機にもドライブ(拍車)がかかっており、行動一つ一つの徹底度合いが半端ではない。
A氏の「流儀」は確立されていると、インタビュー中に何度も思った。
「自分とは?」「仕事とは?」
本質を考え続ける重要性を私なりに理解した上で、敢えて言いたい。
本質は一つではない。自分が本質だと思ったものが本質なのだ。
プロフェッショナルの語源である「profess」とは「宣言」を意味する。
そういう自分を信じることで生まれるエネルギーは、計り知れない。
以上
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