ASTDに参加して


高橋俊介さんには前々から参加するよう勧められていたのであるが、なかなか時間がとれずに参加できなかったASTD(American Society for Training & Development)のコンファレンスに今年はじめて参加した。
ダラスで開催された今年のコンファレンスは大変盛況で、ジャック・ウェルチ(キャンセルとなってしまった)スティーブン・レビットなど著名人の講演のほか、のべ約250あまりの講義が行なわれ、また展示会場にもたくさんの業者が出展していた。
250あまりの講義の中には、スティーブン・コヴィー(言わずと知れた「7つの習慣」の著者の息子)の講義などもあり、1000人くらい収容できる会場は文字通り満員であった。講演のテーマは”The Speed of Trust: 13 behaviors of high trust leaders”で、周囲から信頼を得るというのがリーダーにとって最も重要なコンピテンシーであり、そのためには13の行動を実践しなければならない、というのがメインメッセージであった。この話はこの話で面白かったので機会があれば取り上げたいが、今回は、彼ほど有名ではないものの、非常に面白い視点を提供してくれた、Mette Norgaardという女性の講演を取り上げたい。
彼女の講演のタイトルは「Stories@Work; Nothing change until the story changes」というものなのだが、たとえば、人が描かれている簡単な絵を見せられたときに、人間は想像によってストーリーを作ることができ、「きっとここに描かれている人は、こういう状況で、こういうことをしようとしているんだろうなあ」などと思い描くことができる。
これと同様に、会社の中で起こった出来事や、たとえば上司の何気ない一言などの断片的な情報から、社員は勝手にストーリーを作ってしまい、より大きな筋書きの中に位置づけて、きっとうちの会社は今こんなことをしようとしているのだろうな、とか、きっと次にこういう展開になるぞ、などと無責任に話を膨らませてしまうものなのだ、というのである。そしてそういう筋書きがみんなに共有されてしまうと、あたかもそれが真実のように思い込まれてしまい、違う方向に会社を変えようと思ってもそのストーリーが邪魔をしてしまって会社が変わらなくなってしまい、したがって、みんなの信じているストーリーをこわして望ましいストーリーを刷り込むことが企業変革では重要になる、というのが彼女の主張である。
彼女は、よく作られがちな筋書きは4種類あるとしており、(1)Downfall-転落・破綻、(2)Scam/Betrayal-詐欺・裏切り、(3)Contest-戦闘、(4)Quest-冒険・探索、のどれかを思い描きがちであるとしている。エデューサーという仕事をしていると、確かに、ある筋書きが信じられてしまっていて社員がバイアスを持ってものごとをとらえるという局面に居合わせることがある。
さらにMetteは、それぞれの筋書きに応じて、(1)肉体的エネルギー(2)感情的エネルギー(3)精神的エネルギーの正負が異なるというのであるが、このエネルギーの正負の相違という話はややこしいのでちょっと置いておいて、私が面白いと感じたのは、上記の4つの筋書きが日本の会社にもあてはまるのか、あるいは、別の筋書きもありえるのか、という点である。
皆さんはどう思いますか?
皆さんの会社の中で、上記4つの筋書きのいずれかが信じられていた時期は存在しただろうか?確かに上記の4つの筋書きはありそうである。
しかし、実はもう一つ筋書きがあるような気がするのだ。
正直私がもっとも直面する「筋書き」は「なんとかなるんじゃないのシナリオ」である。世間からはDownfallの真っ只中にあるとおそらく思われている企業の中において、社員が信じている筋書きは「大丈夫。そんな悪いことにはならない。なんとかなるはず」というものである。この筋書きが信じられてしまうと、危機感、Sense of Urgency が生まれてこない。そうなると今の状況を放置したときにどのような怖い未来が広がってくるかホラーストーリーを描かなくてはならなくなり、エデューサーとしては決して楽しい仕事ではないことにまずエネルギーをそそがなくてはならなくなる。
どんな筋書きが企業変革の妨げになるのかは、ぜひ私も独自に今後事例を集めてみたいと思う。みなさんの会社に見られる筋書きで、上記4つ以外があればぜひ教えていただきたいと思う。
■関連用語
ジャック・ウェルチ
変革的リーダーシップ理論
コンピテンシー