創造的マーケティング・リサーチのすすめ


“Market”ing (マーケティング)。市場を創り運用していく一連の作業に”創造性”は不可欠だ。これに異論を唱える方は居ないだろう。
マーケティング・リサーチ(以下MRと略記)は、言うまでもなく、マーケティング活動の一翼を担うものであり、”創造性”が、MRに関わる人間に求められる重要な要素であることに疑いはない。
創造的マーケティング・リサーチ(MR)
私は普段からMRに期待される役割には2種類有ると思っている。
ひとつは、
①やってはいけないことを回避するためのネガティブ・チェック
そしてもうひとつは、
②これからの利益商材(又はサービス)の種(シーズ)を商品化するための創造的アプローチ
である。
ここ20年余りの拙い経験から申し上げると、日本の業界では前者①のケースが多く見られ、携わる方々も順応している。良く言えばリスク回避の切り札的存在。悪く言うと、プロジェクト推進に貢献しない只の評論家的存在となってしまう。
現在のような成熟市場で求められているのは価値創造に貢献できる仕組みであるわけだから、MRの在り方もこれに対応しなくてはいけない。価値創造に貢献できるMRが求められているのである。
集める情報と集まる情報
さらに、ITを中心としたコミュニケーション・インフラの発展により、情報はわざわざ集めなくても、集まってしまうようになった。
例えば、企業サイト(ホームページ)はこれまでの宣伝活動の延長線上に在る情報発信ツールに留まらず、顧客が自ら声を残してくれる情報収集ツールとしての機能を持っているのである。また、企業とは直接的な利害関係のないコミュニティに顧客の集まりが出来て、そこに彼らの声が集約されたりしている。
手間隙かけて収集しなくても、実は、顧客の声が集まっている。
後は、これを如何に有効活用するかだ。
ニーズが語れない顧客
「顧客の声を聴け!」
経営の指南書にも顧客理解は要件のひとつとして掲げられている。
ところが、実はほとんどの顧客は実在しない(自分達が経験したことのない)モノ(やサービス)の価値を語ることは出来ないのである。
ましてや、次に何が欲しいのかを詳細に語ることが出来る者は殆ど存在しない。
彼らの何気ない言葉から、その深層(インサイト)を探る方法が研究されている所以がここにある。
まれに存在する『自ら語れる者』を捕まえ(囲いこみ)適宜彼らの見解を参照する仕組みを手に入れられたら、正に「至宝を手中に納めた」と言うべきであろう。
ある建築家のアプローチ
最近個人的に注目している建築家がいる。
彼は住宅と家具の設計を専門にしているらしいのだが、建築設計にあたって、施主との接し方がユニークなのだ。
先ず、彼は
『施主は自分の住みたい家を自分では表現できない』
という立場で施主と接する。
従って、打ち合わせでは、住宅の設計を依頼されているにも関らず、仕様に関わる直接的な質問をしない。そこでは、一見設計に関係のない、いわば、世間話を施主家族と交わし、建設予定地の視察を行い、後日、模型でプランを提示する。
どうもマーケティングというと、顧客の声をダイレクトに商品に反映させるアプローチであると誤解している人々がいるようだが、この建築家のアプローチこそ、正にマーケティング的アプローチなのである。
設計図というプロの書式を使わずに模型で施主とコミュニケーションをとるところなど、わが意を得たりというところだ。
共通言語は何?
例えば、TVCFの評価を消費者から得ようとする際に、プロの書式である絵コンテのみをそのまま対象者に呈示するケースが散見される。
これなどは、前出の建築設計で設計図のみを提示して、完成した家のイメージを思い浮かべてくださいと言っているに等しいことになる。
プロの書式を素人である顧客に提示し、同等のレヴェルで完成イメージを持ってもらえているという幻想は、局面での意思決定を誤るリスクを高めてしまっていると言えるだろう。
顧客との共通言語で話が出来ているか?
プロの書式や言葉(テクニカル・ターム)押付けることになっていないか?
等、コミュニケーション手段の適正をチェックすることが必要だ。
答えは何処にある?
MRには『解析』が付き物だ。情報の山の中に、あたかも答えが隠されているかのような神秘的な響き!
精神を集中し、雑念を取り払ってそれらに対峙し、特別の手法(=魔法?)を駆使すれば、あたかも炙り出しのように、求めている答えが見えて来る?!
これも幻想である。
答えはマーケターの頭の中にあるだけだ。
それぞれが関わる市場を探求し、試行錯誤を繰り返しているマーケター自身の頭の中には、経験則をベースにしたそれなりの顧客態度モデルが構築されている。
そのモデルから導き出される『仮説』が全ての始まりであり拠り所である。
MRの役割は、この仮説の検証である。顧客から収集した膨大な情報は、この仮説に基づいて咀嚼されるべきもので、仮説というよりどころの無いところからは既成の価値観を基点とした在り来りの現状確認が成されるのみである。
「次はどうすべきか?」
マーケターという創造者が抱える命題に答えを出せるのは、顧客態度モデルを装備したマーケター自身なのである。
※参考文献:中村 好文著「普段着の住宅術」(王国社)
■関連用語
4P
TCP