組織のCI能力


アメリカのケンブリッジにAcademy Of Competitive Intelligence (ACI) という教育機関があります。ACIは20年ほど前に設立されたCI(競合情報分析)の専門家を育成する機関です。このメルマガをお読みになっている方でしたらご存知だと思いますが、欧米の企業ではCI部門(競合情報の収集・分析を専門に行う部門)を社内に設置している企業も多く、ACIではこのような部門で働くCIのスペシャリストを育成することを目的としてきました。
CIスペシャリスト育成にフォーカスしてきたACIですが近年ではプログラムの参加者の中に「CI部門以外のマネージャー」の参加が増えてきたそうです。先日ACIのパートナーの一人であるベン・ギラッド氏とこの傾向について話をする機会がありました。ギラッド氏は欧米でCIのコンサルティングや戦略ウォーゲームのファシリテーションを行うCI界の著名なオピニオンリーダーです。
ギラッド氏によると「もともとCIの力は企業の全マネージャーに求められる力であり、どんなにすばらしい数人のCIスペシャリストがいたとしても、組織のCI能力が低い場合はなかなか成果を出すのは難しい」とのことでした。 確かにCIのスキームを社内で進めていく場合は、すべての部門(営業、マーケティング、R&D、生産、人事、財務など)の方が持っている競合情報を最大限活用することが必須となりますが、この方々のCI能力によってインテリジェンス(自社にとって意味のある情報)のアウトプットに大きな差が出るそうです。これを反映してか、ギラッド氏曰く最近では北米のCIマネージャーから、「いかに組織に対してCIの考え方を浸透させていくべきか?」という相談が増えているそうです。
このこととCI部門以外のマネージャーの参加が多くなっていることの関係性は明確ではありませんが、部門のマネージャーレベルで競合情報に対する意識を高めていくニーズが高くなっていることは確かだと思いますそうなると今後は、事業の現場で重要な情報に日々ふれていらっしゃる方々がこれを意識的に収集し、現場レベルでインテリジェンスとして認識できるような組織となることが求められます。
では、マネージャーのCI能力を上げるために重要なのはどのような力なのでしょう。CIのプロセスに沿って考えてみたいと思います。
CIでは大きく、
1. 競合情報収集
2. インテリジェンスの構築
3. 戦略意思決定への活用
という3つのプロセスを考えます。まず組織のCI能力を上げる意味で重要なのは前半の2つのステップです。
競合情報収集
CIの世界では「必要な情報の9割以上が収集可能な情報である」といわれています。いわゆる「オープン情報」を倫理的に収集することでかなりのレベルのインテリジェンスが構築できると考えられていますので、ここでは収集の可能性が問題になるわけではなく主にその効率が重要になります。注意しなければいけないのが情報収集の基本的スタンス、情報は「拾う」物ではなく「探す」ものであるということ。
どの様な情報があるか解らない状態で収集活動を始め、実際に情報に出会ってからら必要、不必要を判断するのが「拾う」アプローチだとすると、仮説を基に事前に必要となる情報を特定し、その情報の有無を検証するアプローチが、「探す」アプローチです。後者では収集活動を効率的かつ徹底的に行うことができるようになります。ここで重要なのは、情報ソースの知識もさることながら、どの様な情報がどこにあるかを想定する力(仮説構築力や論理思考力)です。
インテリジェンスの構築
このプロセスでは収集してきた複数の情報(インフォメーション・データ類)からインテリジェンスを構築します。断片的な情報の集合はインテリジェンスではなく、複数の断片的な情報が関連付けられ、分析されたものをインテリジェンスと呼びます。よく「情報の意味合いを分析する」などと言われることがありますが、ここで必要となる力は分析力(情報の関係性を認識する力)です。
上記のこの2つは特に重要なのですが、残りのひとつ「戦略意思決定への活用」が重要で
ないわけではありません。なぜならばインテリジェンスの活用方法の理解がない場合、すなわち情報収集の目的が明確でないと必要となる情報も選別できません。また意味合いを分析するに当たり、「何に対する」意味合いを分析すればよいかも明確にできないため、すぐにアクションへつながるような質の高いインテリジェンスが生まれる可能性も低くなります。やはり、自社にとってどの様な情報が有用なのかをある程度意識していることが大切なのです。
組織全体でCI能力が上がると、自社の戦略を理解し、必要な競合情報を的確に収集し、そこから構築する競合インテリジェンスを基に戦略を実行していく。すべての部門にこんなマネージャーがいる組織となっていくことができるのです。
このコラムをお読みの方は人事部門の方が多いと思いますが、人事部門でも、もちろんCI能力が必要です。たとえば皆様は競合の採用動向や人材配置情報を捉え、自社の戦略に対する影響を分析したうえ、自社の戦略実行の意思決定に役立てているでしょうか?
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