比較優位の原則と人材の最適配置


前回のメルマガ発行後、少し先に話を進めて「比較優位」の話を聞かせて欲しいというリクエストを頂きましたので、メルマガのよいところである柔軟性を生かして、先にこの話をしたいと思います。
比較優位の原則とは、国同士でなぜ貿易が起こるかを説明したもので、絶対的な優位性ではなく相対的な優位性があれば、国は財を輸出することができることを示したものです。
まず経済の理論から説明する(中北徹氏の「入門経済学」の事例を借りる)と、日本と米国がそれぞれ自動車とオレンジを生産するとし、それぞれの国では生産性が違うと仮定しましょう。具体的には日本では自動車を100台生産するのに労働時間200時間が必要で、オレンジ100トン生産するのにも200時間必要であるとします。一方米国では、自動車75台を生産するのに600時間の労働が必要で、オレンジ150トン生産するのにも600時間が必要であるとします。
この2国の生産性を比較すると、自動車でもオレンジでも日本の生産性は米国よりも高く、このようなとき絶対優位にある、といいます。このような条件では、日本と米国の間で貿易が行われる理由がないように思われますが、そうではない、というのが比較優位の原則の「みそ」です。
日本は自動車とオレンジの生産にそれぞれ200時間の労働を投入していますが、オレンジに投入している労働をすべて自動車に投入すると、全部で200台自動車が作れます。
一方、米国が自動車に費やしている600時間をすべてオレンジに費やすと、合計300トンのオレンジが生産できます。
分業をしないとき
自動車
|
オレンジ
|
|
日本 |
100台
|
100トン
|
米国 |
75台
|
150トン
|
合計 |
175台
|
250トン
|
分業をしたとき
自動車
|
オレンジ
|
|
日本 |
200台
|
0トン
|
米国 |
0台
|
300トン
|
合計 |
200台
|
300トン
|
分業をすることで、自動車、オレンジの合計は分業をしないときにくらべ増えていることがわかります。なので、日本は自動車に米国はオレンジに特化して、国内で消費できない部分を他国の別の生産物と交換したほうが、全体としてのアウトプットが最大化します。
さて、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。この例では米国は、自動車においてもオレンジにおいても日本の生産性にはかないませんでした。
生産性を1労働時間あたりの生産量で比較してみると
自動車
|
オレンジ
|
|
日本 |
0.5台
|
0.5トン
|
米国 |
0.125台
|
0.25トン
|
日本対米国 |
4:1
|
2:1
|
となり、自動車もオレンジも米国の生産性は低いのですが、でもオレンジの方が、負け方が小さいのです。
このような場合、米国はオレンジについて自動車よりも「比較優位」を持つ、といいます。
逆に日本はオレンジにおける優位性よりも自動車における優位性の方が大きく、自動車で比較優位を持っています。
それぞれの国は比較優位を持つものに特化したほうが全体としてアウトプットは大きくなるのです。
さて、これを人材配置に置き換えるとどうなるでしょうか。
最近人の特徴をできるだけ正確につかんで、適材適所を図るという考え方が広まりつつあります。Aさんは営業に向いている「動機」を保有しているので営業に、Bさんは研究に向いている「動機」を保有しているので研究に、というようにジョブマッチングをする考え方です。
この考え方は非常にすばらしく、人間の持っている基本的な欲求をできるだけ満たすようにすることで、本人にとっても楽しくやりがいの感じられるような職務についてもらおうという考え方です。ただし、人事にとって頭が痛いのは、職種の種類には限りがあり、人数にも枠があるので、全員をジョブマッチング的な思想できれいに割り当てることが物理的に不可能なことです。その点、この比較優位の原則は便利です、Aさんが営業をやりBさんが研究をやるのは、本当はAさんのほうがBさんにくらべてどちらの仕事でも成果を上げられるかもしれないけれど、営業においてAさんがBさんより優れている度合いが、研究において優れている度合いよりも大きいからにすぎません。
営業職が5名、研究職が5名からなる組織があって、動機を調べた結果、7名がどちらかといえば営業職向き、3名がどちらかと言えば研究職向きだったとしましょう。このような場合、研究職向きの人は研究職に配置するとして、7名の方のうち誰を営業職にするのかですが、比較優位の原則にのっとれば、この7名のうち、営業職に比較優位を持つひとから5名が営業職をやり、残った2人が研究職につくのが、組織の成果の最大化の点からは最適といえます。
土井 哲
>>コラムはこちら
■関連用語
モチベーション理論
コンピテンシー