(その4)アクションラーニングとは


前回は、アクションラーニングにおいてエデューサーがどのような役割を果たしているのか事例を示しながら紹介しました。いろいろと書きましたが、エデューサーの提供する価値は、一言で言えば、「問題解決や事業創造に参加者と『一緒に』悩みながら、何とか解決策を見出していく」ことにあります。この「一緒に」苦労する時間を共有することで、問題の整理のし方、問題解決の糸口の探し方などを非常に実感を伴った形で体得してもらうのがアクションラーニングです。
今回は、エデューサーの仕事をさらに深く理解していただくために、コンサルタントやコーチ、あるいはファシリテーターなど、問題解決や事業開発の支援をする別のタイプの人の仕事の仕方との違いを説明させていただきたいと思います。
(1) コンサルタントとの違い
私自身、マッキンゼーという会社で3年弱コンサルティングという仕事に携わってきました。コンサルタントとエデューサーに求められるスキルは極めて近いですが、仕事の仕方は、かなり違います。求められる動機が違うとも言えます。
まずコンサルティングの場合、基本的には経営者や経営企画に雇われることになりますので、顧客はあくまでもこれらトップ・マネジメントです。通常、経営企画の人たちとプロジェクトチームを作り、コンサルティング会社が主導権を握ってプロジェクトを進めます。コンサルティング活動では現状を把握するのが非常に重要ですので、現場のリーダーの方などにヒヤリングを行いますが、大抵の場合、現場のリーダーはコンサルティング会社を良く思っていない場合が多いので、ヒヤリングに苦労することも多々あります。苦労して情報収集したあとは、問題の本質が何か、それに対する効果的な打ち手は何か、などは、当たりまえですがコンサルタント側が立案します。そういうことを考えるのが好きだからこそコンサルタントになるわけで、どうやってインパクトのある提案に高めるかを考えることを非常に楽しいと感じるという特性があります。そして最終プレゼンでは、自分の考えたソリューションを大量のデータとともにロジカルに説明してプロジェクトを終わります。ソリューションを実行に移すかどうかの判断は相手の経営陣任せで、また仮にGoになっても、現場のリーダーに落ちていかない場合もありますが、そこまでは関知しきれない、というのが現状です。
エデューサーの顧客はもちろん、最終的には経営者や経営企画、あるいは人事部ですが、直接的に接するのは参加者です。私たちはこの参加者に働きかけて、何が本当の問題で、その問題解決のためには何をすべきなのか考えてもらい、実行に移してもらうのです。もちろん実行にあたって、経営の意思決定が必要な場合は、そのような場面も設定して、参加者が考えたアイディアを徹底的に検討します。しかし、大抵の場合、取り上げるテーマがまさに今その企業が取り組まなければならないことであり、参加者は仕事としてその解決を任せられているので、考えたソリューションは実行に移される場合が非常に多いというのが特徴です。
エデューサーは、コンサルタントのように自分で解を見つけるのではなく、参加者が実現可能で実行にコミットできる解を見つけてもらうことに力を注ぎます。あくまでも黒子です。コンサルタントが知恵を結集して出した解そのものが100点であっても、実行に移されなくては絵に描いた餅で、0点です。エデューサーはむしろ70点でも確実に実行される解を見つけ出すことを重視します。(100点×0%<70点×100%)最終プレゼンで、経営陣からいろいろな突っ込みがあっても、参加者が自信をもって質問に答え、反論しながら経営陣を説得していく姿を見ることに喜びを感じる、というのがエデューサーの特性です。
また、このようなプロセスを経ると、真のリーダーになりうる人は誰なのかもかなりはっきり見えてきます。
(2)コーチとの違い
コーチは基本的に「相手の中に答がある」ことを前提に適切な質問をしながら、その答えに気付かせていくという手法を取ります。相手に気付きを与えて、問題点を発見させたり、新しい方向性に向かわせるという方法です。もちろんアクションラーニングの途中段階においてエデューサーも同様の問いかけを行います。まずは自分自身や自社の状況に気づいてもらうのは重要だからです。ただし、インヴィニオのエデューサーは明らかにコーチよりも踏み込んでプロジェクトに関わります。というのも、私たちの取り扱うプロジェクトのテーマは殆どの場合、いかに企業の競争力を高め成長を実現するかということであり、そのためには、他社のベンチマーキングや顧客の調査などが不可欠で、単に参加者に考えてもらっても答えが出てこない場合が多いからです。また、前回でも触れたように参加者がアイディアに詰まったときは、私たちがアイディアを出さなければならない場合もあります。ですので、時には具体的にこういうことを調べよ、とか、こういう視点から考えてみよというように、コーチよりはかなり踏み込んだ関わり方になるのです。
(3)ファシリテーターとの違い
日産が社内にファシリテーターを養成して社内会議を仕切り、適切な議論と迅速な意思決定を促すことで変革を成功させたということが知られて以来、“ファシリテーター”も注目を集めています。ファシリテーターは立場の異なる人たちの意見を引き出し、議論をかみ合わせていかなくてはならないので、通常、特定のスタンスを取らずに中立的な立場で接することが求められます。インヴィニオでは、参加者とエデューサーだけでは、検討の幅や質に限界があり、専門的知識を持った人の参加が不可欠であると判断したときには積極的に専門家の参加を求めます。守秘義務契約を結んだ上で、ある分野について造詣の深い方や専門知識を持つ方に入ってもらい、ファシリテーター役に回ることもあります。ただし、あくまでも目的は、質の高い分析を行ったり、質の高い解を導くことなので、そのような観点から論点を絞り込み、参加者の情報や知識を引き出して、いわばナレッジのインテグレーションを積極的に行います。一般のファシリテーターが中立性を重視するのに対して、成果志向で議論の質を高め、アイディアの複合化などを行い、議論をリードします。
このように見ていくと、コンサルタントやコーチ、ファシリテーターとも違うバリューをエデューサーが提供していることがお分かりいただけると思います。
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