理解よりも気づき


「カリスマだって悩んでいる」
「ヤッテミセテ イッテキカセテ サセテミテ ホメテヤラネバ 人ハ動カズ」かの連合艦隊司令長官、山本五十六元帥の有名な言葉です。上意下達の「権化」である軍隊の、しかも山本五十六のようなカリスマでさえ、人を動かすということに大変な苦労をしているんですね。
「動くかどうかは本人が気づいているかがカギ」
これまでのエデューサーとしての取り組み(経営改革・新規事業開発といったテーマを掲げたアクションラーニング、そのスキル基盤となる座学講義、あるいは人材評価等々)を通じ、人が動くために最も重要なことは何かといえば、結局、「本人が気づきを持つこと」、これに尽きるように思います。
通常、やるべきことをやってもらうために人を動かすには、相手の持つ「知・情・意」の3つの条件を満たす必要があります。「知」とはやるべきことの背景や内容が理解できること。「情」とは内容が正しく、主観的にももっともだと納得できること。「意」とは自分でやってみようと思えること。「知」と「情」はロジカルシンキングやプレゼンテーション能力を駆使して相手に効果的に働きかけることができます。しかし、「意」は相手個々人の動機に関係します。そして動機の中でも内発的動機(生まれ持った好き嫌いや価値観)は外発的動機(給与やポストなど)と違って他人から働きかけることは非常に困難です。それなら「意」を持った本人自身がテーマを持ってやるべきことを見つけ、その重要性に気づき、行動に移すことが最も望ましいのではないでしょうか。自分で気づき、自分で自分に指示命令し、自分で行動する。これは今叫ばれている「自律」人間の行動特性そのものです。
「答えは言わない。方向性の提示(ビジョン)と出された答えの評価(意思決定)に徹する」
気づきを持ってもらう方法に特効薬はありません。自分自身でやるべきことを見つけ、無駄な作業も経たりしながら、答えを考え抜くプロセスに没頭し苦労するしかないでしょう。そしてそのプロセスにおいて、見守る側にひとつ重要な注意点があります。それは「当事者以外は答えを言わない」ということです。答えを言ってしまえばせっかく気づきを持たせるために我慢してきたプロセスが台無しです。コンサルタントも、優れた人ほど答えそのものを言いません(もちろん、明らかに筋の悪い方向に行ったときに軌道修正することは必要ですが)。クライアントからの「**さん(=コンサルタント)そうじゃないよー。この答えは○○だよ。」あるいは「**さん、やっと○○が答えってわかったかい。私は最初から○○だと言ってるじゃないの。(実際は最初からは言っていなかったことが多いのだが!)」という言葉。ここまで本人が言ってくれれば、「知・情・意」は一気通貫でクリア、本人自身が動機付け(さきほどの「意」の部分)に働きかけており、実行への移行もスムーズとなっているはずです。知識も経験も豊かな有段者がプロセスを一歩引いた立場から見守っていれば、先に答えや仮説が見えるということは少なくないでしょうが、そこはぐっと我慢のしどころだと思います。
「感ジテミテ 動イテ悩ンデ 考ヘテ 自分デ気ヅイテ 人ハ動ク」(ちょっと字足らず)
高木 進吾
高木 進吾
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