Leadership Insights / 人材投資の効果検証(1)~Why編:効果的・効率的な効果検証を行っていますか?

人材投資の効果検証(1)~Why編:効果的・効率的な効果検証を行っていますか?

(2008年09月30日)

自社ならではの優れた方法論は、継続的な検証・改善のサイクルから生まれる

6月、サンディエゴで行われたASTD(組織開発・人材開発における大会)に参加し、BMW・ナイキ・キャタピラーなどいくつかのグローバルで成功している企業の組織開発の取り組みについて詳しく伺う機会を得ました。そこで非常に感心したのは、彼らが何年もの時間をかけて、外部の知見を取り入れながらも、自社オリジナルの実践的な仕組みを作り上げていることでした。

企業の競争力創出の打ち手として、組織開発・人材開発に対する期待は今、大きく高まっています。そのため、日進月歩で新たな理論や方法論が生まれは消えている状況にあります。そんな中、スピーディーにそのような新たなものを取り入れつつも、的確にそれを評価し、選択したり、改良したりしながら自社にあった方法論を確立していくことはとても重要に思えます。

また、景気の後退局面にさしかかったと言われる中、今後、短期的な成果につながりにくい組織や人材に対する投資へは、予算の削減圧力が強くなる可能性もあります。

人材に対して効果の高い打ち手を的確に打っていくために、そして、必要な投資に対して社内外の納得を得るために、効果を検証し明確に示すことの重要性は今後さらに高まっていくだろうと考え、人材投資の効果検証というテーマで数回に亘って考えてみたいと思います。

本稿では、人材投資の効果検証というテーマについて

Why編:何のために人材投資の効果を検証する必要があるのか?(検証目的の設定方法)
What編:検証すべきことは何なのか?(検証ターゲット指標の設定方法)
How編:どうやって検証するか?(さまざまな検証方法とその使い分けの方法)

という順番で論じたいと思います。今回は、Why編です。

そんなことは分かっているから、早くWhatやHowの方法論をお知りになりたいという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際に効果検証でつまずくケースを見ていると、検証に手間が掛かるため現場の反発にあって実行できないケースや、ROIなどの形式的な1つの尺度にあわせようとしてうまく検証できないといったケースがとても多いようです。それは、Why(検証目的の設定)がはっきりしていないことで、方法に納得感が得られないことが理由のように思われます。

効果検証のキモは、先日の中串氏の「分析」に関するコラムにも通じることですが、必要な「結果の精度」と検証自体の「効率」をどこで折り合いをつけるか?を決めることと言っても過言ではありません。

そして、その判断基準になるのがWhy、検証の目的です。

効果検証は、それ自体が投資効果を下げる行為

効果検証には手間が掛かります。仕事で手間が掛かるということは、これはコストがかかるということです。となると、効果検証という行為はそれ自体が投資の効果を下げるものなのです。

それに、特に人材投資などのいわゆる無形資産への投資においては、通常の投資と比べて効果検証の手間が非常に大きくなります。例えば、株式投資で過去にどれくらい儲かったかの検証は、売った時と買った時の2点(+配当)を見れば簡単です。しかし、人材投資の効果を確認しようと投資した社員の顔をいくら眺めても・・・数字は浮かんで来ません。

詳しくは次回以降にご紹介しますが、人材投資についても、方法によってはかなり厳密に投資効果を検証することは可能です。

しかし、重要なのはその方法を使うのか?という判断です。なぜなら、厳密に検証すればするほど、コストがかかり、投資効果はみるみる下がってしまうからです。(そうすると、その施策の実施を正当化することができません。)

だから、繰り返しになりますが、効果検証のキモは、必要な「結果の精度」と検証自体の「効率」をどこで折り合いをつけるか?それを決めることとなるわけです。

折り合いをつけるポイント ~「判断」と「説得」

投資の効果検証には、2つの目的があります。

1つは、投資した打ち手を続けるのか辞めるのか、続けるとしたら、そのままなのか、やり方を変えて続けるのかといったことを自分(たち)が「判断」する材料とすることです。

もうひとつの目的は、新しい施策を始める、あるいは続けるために経営や他部署を「説得」する材料とすることです。

前者なのか、後者なのか?それが検証の「精度」と「効率」の折り合いポイントを決める基準になります。

「判断」が目的であれば、決めるのは自分(たち)ですが、「説得」なら、相手(施策の実施に影響を与える人物)が何に納得するところで折り合いをつける必要があります。まずは、前者から詳しく考えていきましょう。

「判断」のための効果検証は課題をストレートに検証する

「判断」のための効果検証は、自分(たち)が納得できる精度で十分です。ですので、その折り合いのポイントは「知りたいこと」そのものになります。

「知りたいこと」とはなんでしょう?それは「課題」です。

よく効果検証のやり方についてお聞きするのが「アンケートはこの形に決まっている。」「こういう効果検証をすることになっている」という話。しかし、それは「説得」のための(言葉選ばず表現すると)形式上の効果検証です。しかし、自分(たち)の尺度でできる「判断」のための効果検証は、「説得」のための検証と違い、統一した基準にあわせる必要はないのですから、ストレートに検証したい課題を検証すればいいのです。

「(研修の受講者に)満足しましたか?」とか「(新しい評価制度に)公平感はありますか?」というレベルのアンケートは「説得」のための検証には必要ですが、「判断」には使えません。自分でここが課題となるのではないかと想定される部分をもっとストレートに、たとえば、研修であれば新しく加えた部分についてそこの感想のみをアンケートをとるとか、制度であれば、問題になりそうだと想定している部分についてヒアリングを行うなど、もっと突っ込まないと意味がありません。

さらには、研修のアンケートに「今後の研修において、こういうものがあれば参加したいというものをなんでも書いて下さい。」といった質問を加えたり、受講者の1人を選んで1時間もらってじっくり感想を聞くなどの検証もあります。客観性のあるデータにはなりませんが、施策担当者としては非常に有用な情報が得られます。

「説得」のための効果検証との区別ができていないために、効果検証の形式(客観的なデータなど)にこだわり、必要な情報が得られていないことが散見されます。「判断」のための効果検証に客観性は必要ありませんので、とにかく、自分基準で「知りたいこと」に忠実に設計する必要があります。

「説得」のための効果検証は、「前提」の合意がポイント

「説得」のための効果検証には1つ重要なポイントがあります。それは、検証の「前提」を事前にはっきり明示し、合意する。ということです。

検証結果は「前提」と一緒になって初めて説得力を持ちます。特に「説得」のための効果検証を行う場合には、何を「前提」においた検証なのかを示さないと検証結果に説得力を持たせられません。

そして、その「前提」となるのが「どこまで検証することにしたのか?」です。

たとえば、営業研修の効果を計るのに、研修前後での業績をパラメータとして投資効果の調査を行ったとします。当然、業績のデータを集めなければなりませんが、何ヶ月で結果が出るかが分からない以上、何度かに分けての計測が必要です。そうすると、営業の好調・不調のトレンドがあるはずです。季節変動も見逃せません。これらの修正が必要です。

また、その何ヶ月かの間、営業部門ではいくつもの他の打ち手が打たれているでしょう。その影響なのか研修の影響なのかの統計処理が必要です。さらには、対象者の中で期間中に上司が変わった、家庭的に何かトラブルがあったなど他の大きな影響要因があった者は省かなければ正確な効果は計れません。そのためには各対象者について細かなチェックが必要です。

他にも見るべき点はあると思いますが、このくらいにして・・・どうでしょう?

あなたがこの研修の効果があったという資料を提出して、この研修の拡大を訴えた時、何を効果検証のパラメータにしたとしても、本当に効果があったのかについては、上に書いたような、いわゆる「突っ込まれどころ」は山ほどあります。

もちろん、上に挙げたことを全て検証することは不可能ではありません。計ろうと思えば計れるのです。ただ、手間が掛かり、莫大な(時間や手間を含め)コストが掛かってしまいます。

ですから、「説得」のためには、まず「今回はここまでの検証にする」という「前提」について、事前に合意を得ることが極めて重要です。

3時間の講演を聴いただけなら、アンケートをとって聞いた人がやる気になったかどうかを見る、1泊2日で新たな営業プロセスを浸透させる研修なら、3ヶ月後に何人かをピックアップしてテストを行い、その営業プロセスが実戦されているかをチェックする程度が適切かもしれません。

どうしても業績寄与度が必要であれば、数ヶ月度にアンケートをとり、「業績が上がったと思いますか?」と聞いて、自己申告で簡易的に業績への寄与を計る方法もあります。(余談ですが、この方法をとった場合、取得後に統計的な修正をかける必要があります。)

ただし、営業のあり方を大きく変える研修を多額の開発費をかけて作り込み、最初の100人に実施したあとで、これから5万人の営業メンバーに実施するとしたら、アンケートやインタビュー程度では不適切かもしれません。コストをかけても、上記のような厳密な調査が必要になるのではないでしょうか。

「だから、今回はアンケートで十分」「今回はコストをかけても、ここまでやる」という「前提」を事前に合意した上で、それに沿った検証結果を示す必要があります。(どのような基準が良いかについては、What編で改めて考察しましょう。)


また、これをお読みの方が投資の意志決定を行う方でしたら、「投資基準のひな形をつくること」は、この「前提」を定型化するという意味で、検証の効率をあげることに非常に有効です。たとえば、1泊2日までの手挙げ式のスキル研修については、受講者のアンケートで満足度が高ければそれでよしとする。新たなコンピテンシー体系のトライアル導入の検証なら、手間をかけても厳密なROIを算出する。というように基準を決めることで、効率的・効果的な効果検証が行えます。


次回は、What編と題して、「効果検証のために『何を』計るか?」について一般的な5levelのフレームを元に、現実的な運用(=効率)を前提とした考察を行います。

大城 昭仁


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