Leadership Insights / ポストマージャー・インテグレーション(PMI)

ポストマージャー・インテグレーション(PMI)

(2006年12月15日)

日本企業のM&A(合併・買収)が高水準を維持している。その対象は未上場企業へも波及しており、経営者のM&Aへの抵抗感が確実に薄れていることを示唆しているように思える。

今年、施行された新会社法では、来年5月以降、外資による株式交換による買収も可能になり、法的にもM&Aは後押しされる。資金的には、低金利の円建てノンリコース・ローン*が発達してきており、80年代後半の米国のように、財務エンジニアリング的なLBO(レバレッジド・バイアウト)ブームが、日本でも発生すると予測する専門家もいる。

M&Aを特別視するのではなく、経営効率化の手段として、日本でも積極的に活用されるようになってきたことは喜ばしいことだが、一方、まだまだディールメーキングに関心が集中しており、買収後の統合化Post Merger Integrationに目が向いていないように思われる。言うまでもないことだが、財務エンジニアリング的な買収者でない限り、買収後の統合にこそ価値の源泉があり、統合化に失敗すれば、M&Aに時間を使う意味はない。

M&A先進国のアメリカの歴史を見ると、1990年ごろから買収後の事業統合について、実践的な統合化スキルが体系化されてきたように思われる。その中で注目すべきは、統合化をリードするリーダーシップスキルトレーニングである。それを整理すると概ね次の4つのポイントに集約できる。

・強い危機感を共有する
・ビジョンを描き、動機付ける
・変革推進方法を選択・実行する
・変革の勢いを継続する

企業によっては、これを5~8つのステップ分けたプログラム(ケーススタディやファシリテーショントレーニング、ロールプレイなど)を用意し、統合化リーダーとなる若手を教育する。

たとえば、日本では買収後、被買収企業の従業員が落ち着くまで、じっくり様子を見るというアプローチが多いが、このようなプログラムでは、買収後、まだ危機感が残っている短い時間の間にアクションを取るように勧めている。鉄は熱いうちに打て、である。危機感が希薄になってしまうと、ビジョンの訴求力も半減してしまう。もし、被買収企業に危機感が乏しいなら、ビジョンなどは後回し、まず危機感を引き出すことに専念しなければならないかもしれない。1993年、CEO就任間もないルイス・V・ガースナーが記者会見で、「いま現在のIBMにもっとも必要ないもの、それがビジョンだ」と言い放った。この一言で、どれほど緊張感が高まったか、想像にかたくないだろう。

ガースナーのこの発言に多くの批判が集まったが、それは、本来ビジョンには、それほど人の意欲をかきたて、方向付ける力があるからに他ならない。しかし、人を元気にするビジョンは少ない。上記のようなリーダーシップトレーニングでは、従業員やステークホールダーの感性にうったえ、覚えやすく、また進捗が測れるビジョンづくりを学ぶ。

しかし、危機感の浸透した組織で、社員を燃え立たせるビジョンをつくることができれば、その効果は大きい、と安心してはならない。リーダーのメッセージはそう簡単には従業員の心には届かない、とリーダーシップスキルは警告する。ポスターを壁に貼ったぐらいでは何の役にも立たない。リーダーはビジョンについて社員との対話を繰り返さなければならない。場を変え、時を変え、繰り返し、繰り返し、繰り返し、インタラクティブにメッセージを伝え、対話を続ける。その継続の熱意と努力なしにビジョンは組織の中に浸透し、力を発揮しない。

以上が動機付けだとすれば、次の課題は実行である。意思や意欲があっても、方法論がまずければ挫けてしまう。業務横断的にキーマンを選別し、トップ直轄で統合化のプロジェクトチームを編成する。このチームが統合化に必要な課題を次々と意欲的に見つけては解決していく。日産のリバイバルプランでCFT(クロスファンクショナルチーム)が話題になったが、まさに統合化プロセスの定石なのだ。

ダイエットでも、禁煙でも、始めるよりは続けることのほうが何倍も難しい。買収後の事業統合や不採算事業の建て直しでも、同様である。プロジェクトは一時的である。ビジョンも時間が経つと色あせてくる。せっかくの危機感も、ちょっとした成功で、組織は緊張感を失う。ソフトスキルの最終章は、変革の持続である。リーダーはこれを熟知し、熱し難く、飽きやすい組織にどう立ち向かうのか、勢いを持続する方法を考え、行動を繰り返していかねばならない。

何十、何百件というM&Aを繰り返し、成長する米国企業では、このようなトレーニングを受けた若き統合化リーダーたちが、現実の事業統合に飛び込んでいく。実際の事業統合では、研修では出てこなかったような矛盾をはらんだ多くの難問が次から次へと発生する。知力・体力の限りを尽くしても耐え難い苦しみが襲う。そのとき彼らは、リーダーシップトレーニングで学んだ定石をベースに考え抜き、自らを奮い立たせ、難局を乗り越える。欧米に若さとしたたかさを兼ね備えたリーダーが多いのは、こんな背景があるのではないかと思う。日本企業も、そろそろこのような変革のリーダーシップスキルを鍛える時代になってきたのではないだろうか。




* :ノンリコース・ローンは、被買収企業の将来のキャッシュフローを担保とした買収資金の借り入れであり、返済資金として、合併後の企業の収益や売却収入だけが充当される。このローンは、合併後の企業の借入金となり、買収者みずからは返済責任を負わない。



森 時彦


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