Leadership Stories / 経営における知的挑戦とノウブレス・オブリージュの実践

経営における知的挑戦とノウブレス・オブリージュの実践

(2006年10月19日)
株式会社NTTドコモ 元代表取締役会長
大星公二氏
大星公二氏
大星公二氏
株式会社NTTドコモ 元代表取締役会長


大星公二(おおぼし こうじ)氏 プロフィール:東大法学部卒業後、日本電信電話公社(現NTT)へ。92年よりNTTから分社化した現NTTドコモの社長に就任。携帯電話の頭打ちを予測し、電話会社から情報処理会社に戦略転換すべく「モバイルコンピューティング」のコンセプトを創出して開発させたiモードが成功し、5兆円企業へ育て上げた実績を持つ。現在は、中小企業を中心としたさまざまな改革や地方自治、教育問題などの活動に取り組んでいる。


――本日は、大星さんのこれまでのビジネスマンとして、経営者としてのご経験を踏まえて、お話をお伺いしていきます。まず、ドコモ時代のお話から伺いたいのですが、いまやNTTドコモといえば、日本で知らない人はいない大企業です。大星さんは当初赤字だったドコモの社長として転籍され、最終的にはドコモを売り上げ5兆円の企業に育て上げたわけですけれども、ドコモという会社を成長させるために、ドコモのリーダーとしてリーダーシップを発揮する上で、どのようなことを重視されていたのか、理念といったようなものはあったのでしょうか?

私を支えたリーダーとしての理念、バックボーンは何かっていうとノウブレス・オブリージュ。要するに、トップとして選ばれた人間としての自覚をもって困難している人たちのためのセイフティネットにならなければならない、それが選ばれた人間の責務だってことです。私はたまたま社長に選ばれた。私が行った当時のドコモは、つぶれかかった、赤字の会社だからね。移動体の人間が肩たたかれて、分社化されたドコモに転籍してきたわけです。私は昔から現場主義で、そのときも、現場の社員たちと一緒に酒飲んでいたら事務系の社員は青い顔して、潰れたらどうすんですか、と言う。よく聞いてみると、本人たちだけの問題ではないんだね。奥さんや子供さんたちも不安がっている。そんなことを聞いて、その時にはっと気がついた。社長になって初めて思った。本当だ、俺が経営に失敗したら、この人たちは路頭に迷っちゃうって。NTTはつぶれないけどドコモはつぶれるんだから。当人は何とかなるけれども、奥さんや子供までが、将来に対して不安、悲しみ、それを抱えているんだって聞いて、それが私の経営にかかっているとあらためて実感した。これはいかんと思い、その場で酒を飲むのをやめて部屋へ帰ってどうして売れないのかというところから調べはじめた。この体験がなかったら逆にドコモは発展しなかったかもしれない。そこから私は必死になった。


 経営トップとして大切なものは「知的挑戦」「コンセプチュアルスキル」

――ノウブレス・オブリージュ。社長に選ばれた人間として、あらためてその責任の大きさを実感されたということですね。それでは、経営のトップとして大切なものは何だとお考えですか。

会社が良くなるかどうかっていうのは常に経営のトップの責任です。経営トップというのは絶えず知的挑戦をやらなきゃいけない。知的というのは闇雲にがんばればいいというものではなく、インテリジェンスが大事。インテリジェンスとは、常に知識・情報を学習し、自分なりに消化して自分のものにするということ。しかしただ、頭の中に知識・情報が山のように入っていたってダメ。チャレンジしなかったら価値はゼロですよ。チャレンジはリスクを伴います。そのリスクをできるだけ少なくするのがインテリジェンスですが、やはり、やるべき時にチャレンジしないとだめ。私はいろんなことをやった。特に移動体通信のような変化の激しいところにおいては、トップは少なくとも3年先、5年先くらいのことを考えないといけない。たとえば、モバイルコンピューティング、iモードですね。あれだってやるには、数百億の金がかかります。失敗したらアウト。なぜやったか。必ず売れるというインテリジェンスを持っていたから。あれをやるときに猛反対があったんですが、心配していた副社長に、これが失敗したら社長は君だって言ってやり通した。私には大学時代に自分は勉強しなかったっていうコンプレックスがあったから、会社に入ってからも絶えず学習していた。だからiモードがやれるというインテリジェンスも会社に入ってからの学習の成果だったし、他にも色々大きな決断をするときにはそのときの学習が役に立った。

大星公二氏もう一つ挙げると、コンセプチュアルスキル。コンセプト、これは経営トップが考えなきゃダメ。革新的なことをやる、たとえばネットワークを今までと違ったパケット化にするだけで、300億、400億円かかります。こんなことはミドルじゃ到底考えられませんよ。失敗したら社長の責任だから。経営トップが新しいコンセプトを作らなきゃいけません。iモードはそのコンセプトを受けて、具体的なものに作り込んだ。iモードで有名になったチームメンバーたちがやったのはテクニカルスキルですが、テクニカルスキルだけではiモードは絶対生まれなかった。事実、僕のコンセプトで成功した後、誰も自ら新しいコンセプトを作り出すことができず、ドコモの成長は止まり減収減益になり、株式時価総額は4分の1に激減した。

あと、マネジメントスタイルね。トップのマネジメントスタイルというのは色々あっていい。私は現場主義だから現場の連中の話をよく聞くんだけど、逆に、やると決めたことはやり通す。たとえば、モバイルコンピューティングをやる、これはやるとなったら社内で猛烈な反対が出ても、さっさと外部にアナウンスしちゃう。だから当時はワンマンだとか言われたけど、そういうこともやりましたね。


 人間が力を発揮するには「明るさ」が重要

――なるほど。そのように責任感をもって知的挑戦を続けていかれたわけですね。とはいえお話を伺うと、社長に就任された当初は、赤字が続いていて社員の皆さんは気が重くて暗い気持ちだったのではないかと思います。まず、その組織を明るく元気にしていくのが重要だったのではないかと思いますが、どのようなことをされたのでしょうか。

うん、だから一年半かかったんだよね。いまの質問で非常に重要なキーワードは“明るさ”。人間が力を発揮するっていうのは絶対、明るさ。ある意味でこれは生まれつきの資質かもしれない。私は、めちゃくちゃ明るいと言われるんだけど。

社長になったばっかりのころなんだけど、みんな遅くまで仕事している。それで、社内がますます暗くなっていた。だから私はね、6時半くらいになったらまず課長のところ行って、「君たち悪いけど、今すぐは売れないから。仕事はないんだから帰ってくれよ」と、「そのうちに売れるようになったら忙しくて帰れなくなるから今のうちに帰って、かあちゃんや子供と一緒に晩ご飯を食べてくれよ」とお願いした。課長が帰ったらみんな帰るんだよ。特に私は、6時になったらすぐ帰る。ただしうちへ仕事はもって帰りますよ。社長だから。うちへ帰って風呂入って一杯呑んでそれから、徹夜でいろいろ仕事した。みんなに「心配するな、そのうちに何とかなるから」って言ってたからね。 それと、総務が「節約、節約」っていう。でも、それってますます暗くなる原因だから「必要があれば金使ってくれや」と。どうせ赤字なんだから。「赤字と言うのは売り上げから費用を引いたものである。売り上げが全然伸びないのに費用を少しぐらい減らしたって黒字になんかなりはしない。どうしたらいいか?早いところ売り上げを上げようじゃないか、そのためには必要な金使ってくれよ」と。まあ、そういったって使えないけどね。でもね、夜になると、6時半にはみんな帰してたから電気つけたままで帰るでしょ。社長の私が電気消して歩きましたよ。 それでみんな安心したんじゃないかな。新しい戦略を打ち出したし、「俺は、絶対5年以内に、ドコモを、君も母ちゃんも子供も胸を張って道路のど真ん中を歩けるような会社にする」と彼らに約束した。あと、私は声が大きいでしょ。それで私の声というのは自信ありげに聞こえるそうなんだ。これは生まれつきの資質だな。何か頼りになるっていうんだよね。そんなこんなで一年半くらいの間でみんな明るくなったね。元気になった。


 「面白い」と感じさせることがモチベーションを上げる

――それ以外に、社員の方のモチベーションを上げる工夫などは何かされていましたか?
大星公二氏 ありったけのことをやりました。たとえば、若手社員と私とで直接ディベイトする機会を設けた。私の考え方をいろいろ話したんだけど、一方的に話せば、色々意見や反論もありますよね。そこでディベイトする。必ず質問、発言をさせた。なぜかというと、質問したり発言したりするには自分で考えなくちゃいけないから。これは大脳生理学で言われてるんだけど、ただ話聞いてたら、前頭葉は働かないからね。ところが、インタラクティブに質問すると、とたんに働くようになる。だから、質問でも意見でも必ず発言させる。そうすると組織全体、一人ひとりが考えるようになります。 あとは、人事考課は全方位でやって納得のいかない評価が出たら徹底的に話し合うような仕組みを作ったり、イエローペーパーと呼ばれていたんだけど自己申告表というものを作って自己評価と今後のやりたいことの申告をさせたり、ジョブ・ポスティングも取り入れた。あと、QC活動みたいなことをやって表彰したり、とにかくありとあらゆることをやった。それでも忙しいというよりは、面白い、エキサイティング、と思わせることが大事だったと思う。それが最大のモチベーションになっていたんじゃないかな。

それから、社長が社長室にほとんどいないって言われるくらい社内を歩き回っていた。でも、そうしてると、どうもあの辺はぱっとしないなとかね、あの辺はどうも苦労してるなとかいうこと分かりますな。そこでおかしいなって思ったら声かけて話聞いたりとかして。

ついでに現場主義の話をします。私はNTTのときから現場主義なんだけど、何故現場主義かって、話は単純なんですよ。我々はお客さんからお金をもらっている。だからお客さんがどう考えているかっていうのをよく聞く。これは経営の原点ですよ。だから、お客さんと直接接して、我々がやってることはいいことなのか、どんなことやってほしいかっていうのを一番知ってるのは現場。だから現場に行きます。営業の窓口をドコモショップにしちゃったんだけど、ドコモショップに行っても、支店長より現場の窓口にいる若い人たちの話を聞きます。ドコモっていう会社がいいか悪いかはドコモショップの窓口に座っている若い人たちで決まっちゃうわけで、彼ら、彼女たちが楽しくやっているかどうかが何時も気になった。

現場行っていろんな話を聞く。そうすると、大半は支店で解決する問題なんです。それ、課長にも言ったらいいんじゃないかって言うと、直属上長にって意外と言えないんだよね。嫌われたら人事で意地悪されたりとかがあるかもしれない。ところが社長っていうのは離れ過ぎていて、関係ない人って感じみたいらしい。だから本当のことが言えちゃうみたいだ。


 不安なときにはまず行動する

――社員の皆さんを明るく前向きにさせ、モチベーションを上げるための色々な打ち手があったわけですね。本当にいろんなことをなさって、社員の方は明るく元気になった、そうはいっても当時、大星さんご本人は、本当のことを言えば、色々な不安などはあったのでしょうか。

行動科学の研究で有名な先生が東大にいたんですけど、その先生が面白いこと言っています。生きがいというのは、とにかく走っている間が(生きがい)。止まったら生きがいも止まる。それは、向かい風に向かって走っていると、風がびゅうびゅうと耳元で鳴っている、そのときにそのびゅうびゅうという音で人間は元気が出る。止まったら風が止まる。同時に何もかも止まっちゃう、と。 これは比喩的な表現ですが、潰れるかも知れない会社、社員とその家族のことを考えると、苦しいだとか大変だとか、そんなこと考えてる余裕はなかった。それで、あの手この手、めちゃくちゃ打って、上手くいくときもあるし、失敗することもある。だけど、無我夢中でやっているときっていうのは心配だとか、落ち込むだとかそんなことは、無いもんだね。不安でしょうがないようなときは、とにかく、行動を起こす。もし、失敗したら次のことをやったらいい。結局、成功と失敗はフィフティ・フィフティじゃないでしょうか。iモードだって、最終的にああいう形でやるっていう前に、ほかの事である程度試行錯誤はやってきていた。そんなことを繰り返し、今やらなきゃダメだということになってGoしたわけだけど、iモードができあがるまでにいろいろ失敗してますな。とにかく平坦でいつもうまくいくことはありえないからね。成功したと思ったとたんに失敗だったりとか、そんなこともあるし。不安なときには行動。あれこれ心配だとかいうのは、行動しない間に頭の中で色々あること無いことを作り出すフィクションなんだと思いますよ。


 リーダーは知識・経験・学習の積み重ね+資質

――大星さんご自身は、組織を率いるリーダーとしてリーダーシップを発揮して活躍されたわけですが、大星さんのようなリーダーをこの後に輩出していくためにはどうしたらよいでしょうか?

大星公二氏 結局、知識・経験ということしかないと思うんだけど、電電公社っていうのは昔、エリート教育やっていたから。それは座学じゃなくてOn the Job Training。いきなり係長にする。そうすると背伸びするよね。係長って10人くらいは人を使いますから、そのなかで色々な葛藤があるし、いろんな問題が起きて解決したりしながら今度は課長になり、部長になっていく。それと同時に、それ以外の色々な知識を学ぶこと。知識っていうのは、たとえば本を読む、新聞・雑誌だとか。という積み重ねなんだけど、私は大学で勉強しなかったためにコンプレックスがあって、絶えずキャッチアップしなきゃいかんなと思って、変化する知識情報というのを積極的に汲み取ろうとしていた。私は果てしなく学習していった。そこから差が出てきたんじゃないかと思います。ただ、最近いろんな人の話を聞いていると感じるのは、リーダーにはいろんなスタイルがあって、私みたいによくしゃべるのもいるし、余りしゃべらないけどちゃんとリーダーって人もいる。いろんな人がいて、それで業種業態、会社の置かれている状況、会社の歴史・伝統だとかいろんなことによってリーダーの形っていうのは100人100様になってくる。これってことはないんだな。ただ、私のささやかな経験から申し上げると、同じことをやっていて差が出てくるっていうのは、資質かなと思うようになってきた。このごろ言われ始めていることなんだけど、やっぱり、リーダーに向いた人、っていう資質があるんじゃないかと思います。人とうまくコミュニケートし、心が通じ合うような何か、心の広さというかオープンマインドというか。心の意識がピラミッドになってる人は難しいかもしれないね。私は、入ってすぐの連中ともまったくフラットに話ができるし。でも私は別に努力なんて何もしてないんですよ。普通にやっているだけ。私は電電公社の時代からいろんな経験をしてきて、そこから出てきたものなんじゃないかと思うんだけど、同じことを経験してもそうならない人もいる。その違いは何かと考えると、これだ、という言い方はできないんだけど、いろいろなものをひっくるめて、それは資質なんじゃないか。だからトップになる資質とスペシャリストになる資質、それは違う資質だしね。さっきコンセプチュアルスキルの話をしましたが、もう一つ組織を動かすのに必要なのはヒューマンスキル。ヒューマンスキルは本読んだり勉強したりしても身につかない。ヒューマンスキルが足りない人は、どんなに温かく好意的なことを話していても、それが伝わってこない。なんか冷たいんだ、不思議だけどね。人間臭い、心の温かさみたいなものが資質として出来上がってないんじゃないかと思う。別に性格が悪いとか、いやな人じゃないんだよ。そういう人だっていい人はいっぱいいるんだけど、それは資質の違いなのかなと思うね。 だからこのごろ社長を選ぶのにはそういう資質があるかどうかを大体40代くらいのところから探し出せと言われている。人によっては、若くてもスケールを感じさせるというか、オーラみたいなものを出している人がいたりするからね。


 これからは「What」の時代

――それでは、インヴィニオ リーダーシップ インサイトを読んでいる現在のそして未来のリーダーたちへのメッセージがあれば頂けますでしょうか。

これまでの話にも重複していますが、一番伝えたいことは、これからは“What”の時代だ、ということです。これは私が考えたんだけど、“What”とは、将来を見越して何をやるべきかを考える、ということです。 以前、ハーバードビジネススクールのある教授が、ビジネススクールではHow to は教えられるけど、何を新しく将来に向かって出すべきかという“What”、彼はクリエイティビティと表現していましたが、そういうものを教えてこなかったし、教えられない、と言っています。確かに、これは誰も教えてくれませんよ。自分自身で考えなきゃいけない。そして、Whatを考えるためにはインテリジェンスが重要です。だから、学習を怠らず、何をやるべきかを常に考え続けてほしいと思います。それも仕方なく無理して勉強するというのでなく、食事をしないとおなかがすくように、本や新聞を読まないと知的飢餓感が自然と出てきてむさぼるように吸い取るというような生活慣習になっているようになってもらいたいと思いますね。

――常にWhatを考えること、そのためにインテリジェンスを積み上げていくことが重要なのですね。貴重なお話をどうもありがとうございました。

※大星氏の肩書きはインタビュー時のものです。


■インタビューを終えて
とにかく声の大きな、非常にお元気な方でした!確かにめちゃくちゃ明るい。ご自身で「僕はB型だから明るいんだ。」などとおっしゃっていましたが、この明るさがドコモという組織を率いる原動力の一部であったことは確かだと思います。出身地や血液型など、誰もが答えられるような質問を切り口に相手から上手に話を引き出す方なので、現場の若手社員の方々とのコミュニケーションが活発だったのもうなずけます。今は、NTTを離れて、地方自治や中小企業の改革に力を尽くしていらっしゃるそうです。今後もご活躍を期待しております。(聞き手:インヴィニオ リーダーシップインサイト編集担当)

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