Leadership Insights / アクションラーニングの挑戦:参加者の「目線」を引き上げる

アクションラーニングの挑戦:参加者の「目線」を引き上げる

(2006年09月20日)

インヴィニオの提供するアクションラーニングは、典型的には1年弱のプロジェクトで、前半では基礎教育を行い、後半では自社の課題を取り上げて議論を深め、経営陣に対する提言としてまとめたり、実際にミニプロジェクトを起こしてリーダーとして行動して頂いたり、というような構成となっている。アタマで考えるだけでなく、行動を起こして身をもって体験してみることを通じて、座学だけでは身に付かないスキルやノウハウを学んでいただく一方で、いろいろな気づきを得て頂くというのが最大の特徴である。
参加者は、大抵の場合、その企業の中で将来経営陣に加わる可能性を秘めた人物から選抜され、プロジェクトには大きな教育予算が費やされて実施される。投資が大きい分、リターンに対する企業側の期待は当然大きく、その企業が抱える問題を実際に解決すること、参加者のリーダーとしての能力が飛躍的に高まること、既存事業の収益性が改善すること等々が期待される。


リーダー育成において、人事の方から期待されることの一つに、「参加者の目線を上げる」、ということがある。本稿ではこの「目線」とはどのような要素から構成されるのか、それを上げるにはどのような方法があるかを考えたい。


「目線」とは何だろうか?
エデューサーとして参加者の方々とアクションラーニングのプロジェクトを進めているときに、「この人、目線が低いなあ」と感じるのは、主にその人の関心ごとが、その人の業務領域に閉じていて、部分最適的な話になっているときである。つまりその人の見ている視野が今の職位からの視野になっていて、全社的な視点に立っていない、全体最適的な発想になっていないときである。


なぜその人は部分最適に陥るのか。私は2つのことが大きく作用しているように思えてならない。一つは、現代企業の組織のあり方である。メーカーが典型的であるが、組織は機能別になっている。研究開発、商品企画、部品調達・購買、製造、物流、販売などのように機能ごとの組織で、しかも就職以来同じ部門で長く働いている場合が多い。これは競争が激しくなる中、効率性の追求、専門性の追求という観点からは合理的なのであるが、全社的な視点からものが考えられるリーダーを育成しよう、という観点からは阻害要因になっている。アクションラーニング・プロジェクトにおいて、他の部門から選ばれた参加者と一緒になってみて、「はじめて他の部門の様子がよくわかった」、「会社の現状が見えてきた」という声は少なからず耳にする。長い間、その機能のプロになれと教育されてきて、ある日突然、リーダー育成プログラムに選抜されて全社的な視点で議論せよと言われても、急にはできないのである。この問題を解決するには、幹部候補の人材を早くから見極め、意図的、計画的に異動・ローテーションを行なうしかないように思う。


部分最適に陥るもう一つの要素は、成果主義の弊害である。成果主義が浸透する中で、自分の成果に関心が集中し、周りに対する関心が薄れていたり、自分の部署さえ成績を上げれば良いというような態度になりがちだったり、ということがはびこっていないだろうか。この問題を解決するために、一部の企業ではコンピテンシーを定義し、「組織横断力=他の部署を巻き込んだり、関係部署と連携したりしており高い視点から成果を追求している」などの項目を設けたりするのだが、社員をドライブすることになる目標そのものに工夫をしない限り、視点が高まらない。その人の率いる組織(例えば●●部)が所属するより大きな組織(例えば■■事業本部)の目標と連動する形で目標を設定することによって常に事業本部の成果を気にさせたり、部の目標以外に事業本部全体の目標の一部を責任者として担当させたりするなどの工夫が不可欠である。


アクションラーニング・プロジェクトで最終回に経営陣に対して提言を行なう場合、参加者と経営陣の議論を聞いていて、かみ合っていない、目線が違うなあと感じることがある。
この場合の目線の違いもまた、いくつかの要因によって引き起こされる。
一つは圧倒的な情報量の違いである。経営者に対しては、(裸の王様でない限り)基本的には全社の情報がいろいろな形で集約されて報告される。また、経営者になれば、社内だけでなく、社外の人との交流も増え、市場や業界に関する多くの情報を持っている。それに対して現場のリーダーには全社的な情報が意外なほど入っていない。これでは、同じように考えろといっても、考える前提になる情報に差がありすぎて酷である。経営判断に関わるすべての情報を全社員に開示するのは、それはそれで危険であるので絶対にやるべきではないと思うが、少なくとも幹部候補と思しき社員には、極秘情報も含めて情報共有を行ない、問題意識の共有を図るべきであると考える。


ものごとを考える際の時間軸の違いや、いわゆる判断基準の違いもまた目線の違いとして映る。成果主義の弊害の一つとして、1年単位で物事を考える癖がつきやすいというのはよく指摘されることである。しかし、経営者はもっと長い時間軸で考えている。また、意思決定を行なう際の判断基準も、経営者の方が多面的である。現場のリーダーが1年間の成果目標達成に役立つかどうか、という短期的、一面的判断になりがちなのに対して、やはり経営者は、株主の立場からはどうかとか、CSRという観点からはどうか、ブランディングという観点からは・・・のように多角的に判断する場合が多く、これもまた目線の違いとして映る。


私は戦略の研修のときに、「何かを実現するには複数の戦略シナリオがありえて、でも、経営資源には限りがあるのですべてを実行できない場合も多く、そのときには選択の意思決定をしなければならないが、意思決定には判断基準が必要である」という話をするのだが、「ところで御社の社長は何を判断基準にしていますか?」と聞くと、たいてい答えは、「よくわからない」である。これでは、経営者と同じ目線で考えましょうといっても土台無理である。このような判断基準の違いを解消して、おなじ目線で議論するには、何を判断基準にしているかを明確化する必要があるのだが、これが案外難しい。というのも、誰でもそういうところがあると思うが、案外自分自身の判断基準が何であるのか明確に意識しておらず、従って他人に説明できないことも多いからだ。この問題を解消するには、これまでの重要な意思決定を振り返ってもらってなぜそのように判断したのか経営者自身に解説してもらったり、あるいは、アクションラーニング・プロジェクトの最終回で参加者が提言したことに対して、どのように受けとめたのか、どのように考えたのかなどをその場でじっくり聞き出していきながら判断基準を明確にしていくしかない。


あるメーカーでこのような事例があった。アクションラーニングを始めたとき、その会社の業績は必ずしも良い状況ではなく、全社的に選択と集中に取組まざるを得なかったのであるが、社長が意思決定の基準としてEVA※を使う、ということを宣言し、実際にそれをあえて機械的に適用して見せたことによって社員にとっての判断基準が明確になり、一気に事業ポートフォリオの組み換えが進んだ。本当はいろいろなことを考慮して判断したかったのかも知れないが、あえて単純化することで、道標を与えて一体感を醸成して成功した。目線を引き上げたかどうかは別として、目線を揃える、という点では有効であったと思う。

以上いろいろ書いてきたが、社員の目線と経営者のそれに違いが出てしまうのには、いろいろな要因があり、リーダー育成において両者を近づけようとするのであれば、


①評価制度や人事制度の中に目線が上がらざるを得なくなるような仕掛けを意図的に入れること
②経営陣しかもっていないような重要な情報、それに基づく問題意識を開示し、共有すること
③経営者の判断基準を明示知化すること


などに取組むことが不可欠である。②③は研修プログラムの中でもある程度解決できるが、①は日ごろからの取り組みが必要である。


※EVAはスタンスチュワート社の登録商標です。

土井 哲


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