Leadership Insights / 思考実験:人が変われば組織も変わるのか?

思考実験:人が変われば組織も変わるのか?

(2006年07月19日)

以前、ある大企業の人事部で社員研修を担当している友人から「いくら研修をやっても、会社は変わらないんだよなー」という愚痴を聞いたことがある。確かに、従業員が何万人もいる彼の会社の業績は、この10年程を見る限りあまりぱっとしない。「じゃあ、研修は効果がないってこと?」と聞いてみると、「いや、絶対にそんなことはない!研修を受けた社員は、皆顔つきが変わって帰ってくる」と彼はきっぱりと答えた。しかしその後でぽつりと「でも、砂漠に水を撒いているような感じがするんだ」とつぶやいていた。

個人の集まりである会社という組織も、個人と同じように「顔つきが変わる」ような変化を遂げることがあるのだろうか。その答えは、もちろんイエスである。某自動車会社のように、強いリーダーシップを持った経営者の登場によって、まさに会社としての顔つきが変わってしまったような例もある。ただし、トップ1人が変わっても大多数の社員に何らかの変化が起きなければ、組織全体が変わることはありえない。

組織全体が、あたかも人相が変わるように変化を遂げるとき、集団の中ではどのような変化が起こっているのだろう。現実の企業組織にはいろいろな形態があり、そのすべてについて考察することは不可能に近い。ここでは、ごく単純なモデルを想定して思考実験をしてみたい。

人相の「相」は、物理学では物質の状態を示す用語である。例えば、固体、液体、気体は、それぞれが異なる相である。水は常温では液体(液相)であるが、0℃以下では氷(固相)、熱して100℃を超えると湯気(気相)になる。このように相が変わることを相転移という。相転移は、物質を構成している分子の状態が少し変わるだけで、物質全体の性質が大きく変わることを示している。人を分子に例えるのは乱暴だが、あえて組織を物質に置き換えて、相転移について考えてみよう。

まず、巨大な筒(円筒)を思い浮かべていただきたい。その筒の中に、たくさんのビー玉とパチンコの玉を隙間なく詰め込むとしよう。実際にはあり得ないが、規模の大きさに依存しないように筒の体積は無限大、玉の数も無限個とする。ビー玉はガラスでできているので、電気を全く通さない。一方、パチンコ玉は鉄製なので電気を良く通す。巨大な筒の中にこの2種類の玉を適当な割合でバラバラと流し込み、ぎっちりと詰まった状態で筒の両端に電線をつないで電流を流してみる。電流は流れるだろうか? この場合、「少しだけ流れる」ということはあり得ず、流れるか流れないかのどちらかになる。筒の中でパチンコ玉が接した状態で、端から端までつながっていなければならないからである。直感的にお分かりいただけると思うが、パチンコ玉の割合が多い方が、電流が流れる確率が高くなる。仮に、筒の中が全部パチンコ玉なら100%電流が流れる。逆に、全部がビー玉なら流れる確率はゼロである。ここで全部をビー玉にした状態から始まって、少しずつパチンコ玉を混ぜて行くとしよう。パチンコ球が徐々に増え、その比率が1割、2割、3割と増えて行くにつれ、電流が流れる確率はどのように変化して行くだろうか。もしかすると、1割パチンコ玉を混ぜるとその確率は10%、2割なら20%…とお考えかもしれない。しかし、実はそうではない。電流が流れる確率の増え方は直線的ではなく、パチンコ玉が5割を超えたところでいきなり跳ね上がるのである。パチンコ玉の割合が0.5未満まではその確率は0で、0.5を越えた瞬間にいきなり50%以上になる。そして後は指数的に上昇して行く。つまり0.5を境にして「電気が通じない」相から「電気が通じる」相への相転移が起こるわけである。この相転移を起こす割合(この場合は0.5)を臨界確率、相転移が生じるこの現象を、パーコレーション(浸透現象)という。臨界確率0.5でパーコレーションが起こることは、数学的に証明されている(注:モデルによって臨界確率は異なる)。

会社組織に話を戻そう。組織にもパーコレーションは生じるのだろうか。おそらく、組織を構成する個人が劇的に変わったとしても、その割合がある一定の値(臨界確率)を超えない限り、組織全体の相転移は起こらないのではないだろうか。つまり大きな組織は、徐々に変わって行くのではなく、ある瞬間を境にしていきなり変わるということである。「そんなに単純な話ではない」というお叱りの声が聞こえてきそうであるが、非常に多くの人間が集まってできている大企業こそ、この単純なモデルは当てはまると思う。少なくとも、個人と組織の関係を考える上で、相転移という現象には重要な示唆がある。

さて、冒頭の研修担当者だが、いろいろと愚痴をこぼした後で「でも、人材育成は大事だよ。とにかく多くの社員に質の良い研修を受けさせることが俺の使命だ」と自分を納得させるように言っていた。案外彼は、会社組織にもパーコレーションが起こることを無意識に感じ取っていたのかもしれない。

平野 茂実


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