Leadership Insights / 利益に直接貢献しない業務の存在と全体最適

利益に直接貢献しない業務の存在と全体最適

(2005年09月15日)

前回は単純なモデルを示し、企業の利益と社員の収入を連動させることができれば、社員は自分の利益(収入)を極大化するように判断して行動すれば、自動的に会社の全体最適が達成される可能性があることを示した。今回はその単純なモデルに、コストセンター的な仕事を加えて考察をすることにしたい。


モデル企業の従業員は、商品販売の仕事をしていたが、仮に商品を販売したあとに、その商品を運搬し設置する必要があるとしたらそこで働く個人の行動はどのような影響を受けるだろうか?エアコンや湯沸かし器のように、自宅に届けてもらうだけでは意味が無く、最終的に設置してもらってはじめて価値がある商品を扱っているとしよう。


この企業には営業マン以外の人材はいないので、営業マンが運搬と設置をすることになるが、運搬や設置に時間を使うとその分営業活動が短くなり、これまで年間100個売れていたのが、80個に減少するとする。収入は(単価-原価)×数量×90%なので、360万円に下がってしまうことになる。営業マンにとっては大打撃である。


この企業の売上・利益もそれぞれ16000万円と1600万円となり、販売だけの仕事をしていたときに比べて20%減少することになる。


ここで営業マンに選択肢が与えられ、「運搬と設置の仕事を外部にアウトソースしてもよい。ただし外部に支払う費用は自分の収入から支払うものとする」という通達が出たとすると、営業マンはどのような行動をとるだろうか?


おそらく、その外注費用が90万円以下ならば、アウトソースすることにするだろう。なぜならば、年間100個売る力のある営業マンは運搬をアウトソースすることで自分の収入を増やすことができるからである。たとえば、アウトソースにかかる費用が50万円(1台の運搬と設置のコストが5千円)だとすれば営業マンはアウトソースすることで、100個販売することに全力を注ぎ、年収を40万円増やすことができる。(100個×5万円×0.9-50万円=400万円>360万円)


全員がアウトソースを行うと社外に1000万円(5千円×2000台)が流出してしまう。もし、1000万円以下で、全営業マンが販売する年間2000個の商品の運搬と設置を専門に行う人が採用できるのなら、採用して内部でやったほうが社外流出を減らすことはできる。そのような人をたとえば、年収450万円で2人雇えるなら、1000万-900万=100万円を社内に留保することができる。その100万円を営業マンに支払うならば、営業マンの収入は一人当たり5万円増えて405万円になる。自分が個人でアウトソースすれば50万円かかるのに対して、会社が社員として雇い入れたことで、営業が負担すべきコストが45万円に減少したからである。


ただし、社外へのアウトソースの費用と、社内に人材を抱えることの価格しだいで判断は異なってくる。


運搬と設置の人材が一人当たり500万円なら、アウトソースしても社内に抱えても同じことになり、550万円なら、社内に抱えるよりもアウトソースしたほうがよいことになる。当たり前だが、アウトソースするよりも高いコストで社内に抱えるのは合理的ではないので、運搬と設置の人材に500万以上の値段はつかない。


このケースからどのようなことが言えるだろうか?


ここで議論を表形式で整理しよう。 

 
売上
粗利
留保利益
社員への配分
(一人当り)
外部流出
(他企業の
売上)
ケース1
営業マンが運搬+設置も行う
16000万円
8000万円
800万円
営業360万円
ケース2
営業マンがアウトソース
(1台9千円)
2億円
1億円
1000万円
営業360万円
1800万円
ケース3
営業マンが個人でアウトソース
(1台5千円)
2億円
1億円
1000万円
営業400万円
1000万円
ケース4
運搬+設置担当を2名雇用
人件費はひとり450万円
2億円
1億円
1000万円
営業400万円
設置450万円
ケース5
運搬+設置担当を2名雇用
人件費はひとり500万円
2億円
1億円
1000万円
営業400万円
設置500万円


① 売上や利益を上げることを担う人の業務内容の中に、必ずしも売上・利益に貢献しない業務が含まれるときに、その部分を切り離して貢献業務に時間を費やさせるほうが企業の売上・利益は大きくなる。(ケース1vsケース2)


② 非貢献業業務を内部で行うより外部企業に任せたほうがコストが低減できる限り、社員の受け取り給与は上がる(ケース2vsケース3)


③ 非貢献業務を社内で抱えた方が、外部にアウトソースするよりも費用が低いのであれば、営業マンの受け取りはさらに多くなる(ケース3vsケース4)


④ 非貢献業務を社内で抱えるのと、外部にアウトソースするのと、費用が同じであれば、どちらでも経済的には差はない。(ケース3vsケース5)


通常、ある機能を専門的にやっている企業のほうが、必ずしもその機能の専門家でない企業よりも効率が高いと考えられるので、ケース4のように社内で雇ったほうがコストが低くなる、という状態にはなりづらいものと思われる。


まとめると、やはり前回同様、営業の人間が自分の手取りの極大化だけを考えて、外部のリソースの活用について合理的に判断すれば、企業の利益も極大化され、かつ営業マンの受け取りも極大化されるのである。もちろん、外注する自由を与える必要はある。


一般的に、収益の源泉にならない業務を担当する部門をコストセンターなどと呼ぶことがあるが、プロフィットセンター、コストセンターとはそもそも何なんだろうか?このケースでは、運搬と設置はあまり重要性のない仕事のように扱ってしまったが、PCのように運んで設置し、さらに使い方まで教えてあげることが、消費者にとって価値のあるサービスで、商品選択の重要な要素であると仮定しよう。こうなると、運搬と設置業務は、まさにその企業の競争力の源泉になっているということになり立派なプロフィットセンターということになろう。要はプロフィットセンターとは機能で決まるのではなく、顧客にとって価値を提供しているとか、差別化の源泉になっているかどうかで考えるべきものであるように思う。運搬の部分を切り出して、そこはコストセンターと考える方法もあるだろうが、もし少しでも早く相手に届けることが重要であり、デリバリーの時間の短さが、業者選択の鍵になるのであれば、やはりそれはプロフィットセンターということである。


今後の執筆予定だが、次回はこのモデルに時間軸を入れたときの考察を行いたい。その後はガラっと話題を変えて、国際貿易の発生を説明する「比較優位の原則」を使って、人材の最適配置を論じたい。さらにその次は、無差別曲線という概念を使って報酬のパッケージングについて考えたいと思う。



土井 哲



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