Leadership Insights / 全体最適を実現するひとつのアプローチ

全体最適を実現するひとつのアプローチ

(2005年08月19日)

一つの変数をみながら社員が自分の利益を最大限にするために合理的に判断して行動すると、結果として企業全体の最適が図られるような変数はないのか。以下のような状況を仮定して考察してみよう。

① ある企業が存在し、この企業は2種類の商品A,Bを仕入れて販売している
② 商品Aの単価は10万円、商品Bの単価は8万円で、仕入原価はどちらも5万円とする。
③ 社員は営業に関わる人材だけでAの販売を担当する人が10名、Bの販売を担当する人が10名いる。
④ 商品の販売には特殊な知識が必要であるが、AもBも売りやすさに違いはなく、一人の営業マンは年間100個販売できる。
⑤ この企業は粗利の10%を最終利益として残すがそれ以外は社員に給与として配分する。
⑥ 人件費以外の経費はないものとする。

この企業の1年間の売上はA,Bそれぞれが1000個売れるので、1億8千万円(10万円×100個×10人+8万円×100個×10人)となり、利益は8000万円((10万円-5万円)×1000個+(8万円-5万円)×1000個)となる。10%の利益800万円を残すとすれば、7200万円が社員に給与として支払われる。それぞれはみんな同じだけ売ったので平等に扱うとするなら一人360万円の年収となる。

さて、この企業が利益を最大にしたいと考えるのであれば、全員をAの販売に回したほうがよい。なぜなら売りやすさは同じなので全員がAに注力すれば、売上は2億円、粗利は1億、となり、10%の利益を残すとして、社員に支払われる給与も、一人当たり450万円となる。

だから、利益の極大化という観点から全体最適を実現したいと考えるなら、会社の方針として「BをやめてAだけにする」と宣言すればよく、あとは社員はその方針に従って粛々と自分の販売活動を行えばよい。

しかし、ここでは、何らかの変数を通じて社員が自律的に判断をすると自然と全体最適が達成されるようにしたい。どのような方法があり得るだろうか?

ひとつの答えは、「これからは各担当者がもたらした粗利の90%を各自の収入にする。」と宣言することである。こうするとAを扱うものとBを扱うものの間に不公平が生ずる。Aを売っている人の年収は、450万円になるのに対して、Bを売る人の年収は270万円に下がってしまうからだ。

これは言い換えれば「Aを売る仕事」と「Bを売る仕事」に値段をつけ、社員にどちらを選択するのか考えさせるということである。同じ力でよりよい収入を得られるのであるから、もはやBにとどまっているのは非合理的でありAを選択するはずだ。各自が自分の収入の最大化という極めてミクロ的な視点で判断しても、Aが全員に選択されることで会社全体の利益は最大化し、かつ社員の所得の合計も最大化するのである。

この非常に単純な例から何が言えるだろうか?

① 利益にどれだけ貢献したかで収入が決まるような仕組みを導入し、社員に選択の自由を与えることで、全体最適が実現される。
② 「方針」は選択の自由を奪い最適な資源配分を阻害することがある。

企業では、戦略的に何かに注力をするということが普通に行われる。「経済合理的」ではなく「戦略的」に行った判断の結果が、全体最適を導く保証は全く無い。むしろ大抵の場合は相反するのである。唯一、相反しないのは、経済合理的なことを推進するという戦略をとったときだけである。

この2つの事柄は、いろいろなことを考えさせてくれる。

ひとつは、社員は自分の利益への貢献度をどれだけ認識しているのか?ということである。大企業で働いていると自分が自社の利益にどれだけ貢献しているかがわかりづらい。よく人事の方が「自律的に動ける人材」を育成したいとおっしゃるが、自律的に動くためには判断材料が必要である。何をすれば利益貢献につながり、何をすれば利益を損ねるのかがわからない状態では自律的に動きたくても動けないし、一見自律的に動いている人がいても、その人の行動が会社全体の利益に貢献しているのか実のところどうかはわからない。

第二に、選択の自由があるか、ということである。今回の事例ではAもBも売りやすさは同じと仮定したが、現実には商品が違う以上、求められる知識は当然ちがってくる。とくに部門をまたがって異動したいとおもっても、求められる知識もスキルがかなり違う。個人が自分の労働時間をある領域から別の領域に再配分したほうが得だと思ったときに、それが速やかに行えるような支援が実は大切であり、研修の仕事をしていて感じるのは、まさにそのような研修・教育プログラムを揃えることが人事の教育担当の責務ではないかと思うのである。(そういう意味で、最近日産が導入した、教育体系=すべての職種に求められるコンピテンシーを明確にし、それを身に着けさせるための教育を揃えようとしているのは方向性として正しい。)

第三に、最近批判が多い、成果主義や目標管理制度であるが、完全に全体最適の視点にたって、大目標から順番に中目標、小目標さらには個人の成果目標へときれいにブレイクダウンされない限り非効率が必ず発生する。そのようなブレイクダウンをせずに、たとえば去年の実績に上乗せして目標を決めるやり方は、本人をモチベートするという点からは有効かもしれないが、全体最適には全くつながらない可能性すらある。

利益貢献度を測定してその人の収入に直結させ、自分の時間を何に使うべきかを選択させるというのは、全体最適を実現する上でのひとつのアプローチだと思う。

さてここで大きな問題が生ずる。社員に自律的に判断してもらい、選択の自由を与えられれば、確かに全体最適は成り立ちそうであるが、企業経営は先を読みながら行うものなので、今、全体最適を確保することが、将来の発展につながる保証はない。となると、目先の利益を指標とするのではなく、時間軸を取り入れた利益(AやBを売り続けることから将来生まれてくる利益の現在価値の合計)を指標とすることも必要になる。

また、現実の仕事においては、経理や法務などコストセンターと言われる仕事の存在も無視できないし、企業のブランド価値のように、社員の売る努力を助ける資産も存在する。

次回は時間軸やコストセンターの扱い方、ブランドなどの資産をどのように考えればよいのかについて検討したい。

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土井 哲


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