Leadership Insights / 日本企業における人材育成の危機

日本企業における人材育成の危機

(2005年07月15日)

最近企業における人材育成に関する課題が深刻化している。原因は成果主義のプレッシャーだとか、団塊世代の大量退職などがよく言われているが、実態はそんな単純な話ではなく、多くの不可逆的環境変化が関係し、後戻りできない状況にあることがわかる。なぜ今人材育成の危機が起こっているのか、その解決の考え方は何なのだろうか。

まず、基本的認識として重要なのは、そもそも日本企業はOFF-JTに対する社員一人あたりの投資は、主要先進国では昔から最低レベルであるということだ。それに加えて自己啓発は、ホワイトカラーが自分自身のスキルアップのために使うお金と時間という意味で、世界最低水準といわれている。一方で、組織内の縦序列に基づくOJTは、世界の中でも最もうまく機能してきたといっても過言ではない。問題はこの縦序列による指導伝承型OJTが、機能しなくなってきていることだ。

原因はいろいろある。まず組織や人員構成の変化、例えば新卒採用の断絶、組織フラット化によるちょっと上の先輩による後輩指導の弱体化などだ。2番目に働き方の変化がある。プロジェクト型組織の増加、契約社員や派遣社員、アウトソーシングの増加で、上司部下の関係が流動化し、時間をかけて育てる環境が無い。さらにはIT環境の進展により個人の仕事がブラックボックス化して、背中を見て育つ、例えば先輩の電話の会話が自然に聞こえてくるといった環境が減少している。さらにはノミニケーションなどの非公式コミュニケーションの場が大きく減少している。三番目には確かに人材マネジメントの変化も挙げられる。人材構成が極めてタイトになる、実績に偏った抜擢で管理職の人間力全体が十分考慮されていないといったことが挙げられる。一方で若者自身が変化している点も重要だ。例えば将来の夢が持ちにくい環境で、学習意欲が沸きにくい、上昇志向が減退しているので、組織内上昇を大前提とした縦序列の育成システムそのものが機能しにくい、さらには昔は常識だったことが、育った環境の違いなどで、ゼロから教えないといけない。この問題は大学全入時代を迎え、今後ますます深刻化する可能性がある。

しかし、もう一つ極めて重要な側面があることを忘れてはならない。物づくりの現場力が縦序列によるOJTの弱体化で弱まっている理由と言うなら、以上の説明で事足りるだろうが、より深刻なのは、求められる能力そのものの変化である。変化の激しい経営環境で、上司や先輩が体験していない新しい能力は、職場の縦序列のOJTでは教えられない。OFF-JTや上司以外のその道のプロによる指導が必須である。更には、そもそも正解の無い仕事で必要な問題発見能力などは、指導伝承型の育成施策そのものが機能しない。ソリューションなど、このような新しい能力がいまや極めて重要であり、このような分野での日本企業の収益性が十分高まらないかなりの原因は、上司や先輩が教えられない新しい能力の開発の遅れにあると考えられる。

縦序列による指導伝承型OJTの弱体化に加えて、職場の人数不足による育成的ローテーションや思い切った若手への試練付与がしにくい環境もあり、若手人材の成長障害は、企業にとって大きな課題となっている。

今後の育成の大きな方向性としては、まず職場の縦序列による指導伝承型OJTばかりでなく、上司以外のプロや職場の全員による、互いの学びあい環境の強化、つまり横や斜めの職場学習環境の強化が重要だろう。ITを負の要因と見るのではなく、ITをむしろ活用して、事例情報共有やサイバー上の議論を活性化させる仕組みなど、新しい相互学習相互刺激の仕組みを構築するべきだろう。さらに日々の業務における積極的な育成型課題アサインメントを推進するため、業務管理機能の中に育成要素を向上させる仕組みや、業務管理や成果責任という管理職業務と、その道のプロフェッショナルによる指導育成業務を分解するという発想も重要だろう。管理職についてもその登用基準に、過去の実績でなく将来性、例えば人を育成する人間力などを重視する、コーチングなどのスキルを向上させるということもあろう。

一方OFF-JTを見直し、特定業務スキルなどばかりでなく、行動特性や思考特性の変革を行えるOFF-JTとその後の職場フォローアップの仕組みを開発していくことも重要だ。最後に一番基本的な問題として、個人が生涯にわたって自分自身の能力開発とキャリア構築に向けて、自ら切り開き続ける行動特性思考特性を、若い早い段階に身につけさせるキャリア自律政策がとても重要であろう。この能力を私はキャリアコンピタンシーと名づけている。単なる市場性のある資格やスキルではなく、この能力が20代のうちに強化されるマネジメントや人事施策、支援策を積極的に実現していくことがすべての前提になるのではないだろうか。


高橋 俊介


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