Leadership Insights / 部分最適と全体最適

部分最適と全体最適

(2005年07月15日)

私は大学時代に経済学を専攻した。経済学部の出身の方はおわかりになると思うが、経済学部は、もちろんその道を極めるのならそれなりに勉強することが求められるが、単位をとって卒業さえ出来ばよい、と考えるのであれば比較的勉強が楽な学部である。

というわけであまり大学時代は勉強した記憶がないが、その後MITのスローンスクールでいわゆるMBAのコースを履修することになったときに、再び経済学を真剣に学ぶ機会があった。ご存知のようにMITには錚々たる経済学の教授陣がいる。レスターサロー、ドーンブッシュ、モジリアーニなど、日本にいたときに教科書で見覚えた名前が、名札に書かれて廊下の両側にある部屋の入り口に無造作にかかっていた。

経済学が解こうとしている基本問題は4種類ある。①どのような「財」がどれだけ生産されるか。②これらの財はどのように生産されるか。③これらの財は誰のために生産されるのか。④だれが経済的な決定を行うのか、またどのようなプロセスで行うか、の4つである。(スティグリッツ「ミクロ経済学」第1章)なぜ、そのような問題を解かなくてはならないのか、といえば、資源が希少であるという動かしがたい事実があるからであり、それをいかに有効に使うかが人類にとって重要な問題だからである。

このような問題を考えていく上で、経済学では、まず現実を非常に単純化してモデルを作り、それを考察してそこからの意味合いを整理した後、少しずつモデルに現実を取り入れて考察を繰り返すことによって、より役立つ示唆を得る、というアプローチを取る。

留学中は真剣に学んだ経済学であるが、仕事では使う機会がなかったのですっかり忘れてしまったものの、今人材に関わる事業に携わっていると、意外なことに人事制度や人材の育成、配置などの点で経済学の理論が使えるのではと思うことがある。考えてみれば、企業活動も、「優秀な人材」という希少資源を、どれだけ有効活用するかということだからである。

経済学に関する今現在の私の知識はいい加減なものであるので、「それはちゃんと理論がわかっていないよ」とか「曲解しているよ」という批判もあるかも知れないが、もう一度勉強しなおす時間もないので、そこは甘く見ていただきながら、どのように経済学の理論が人事制度や人材教育に役立ちそうだと考えているのか、私のコラムにお付き合いいただきたい。

【部分最適と全体最適】

まず取り上げたいのが、部分最適と全体最適というテーマである。

以前コラムの中で、弊社が推進しているアクションラーニングというアプローチを紹介したが、弊社ではその会社のテーマを取り上げて、リーダー人材とともに解決を図るというアプローチをとっている。(詳しくはアクションラーニング入門をご参照下さい)

このときリーダーの方たちの問題意識を聞き、ともに検討していると「それは部分最適的な考え方に陥っていませんか、より高い視点から全体最適を考えましょうよ」と言ってしまうことがある。

確かに蛸壺的な視点でものごとを考えていては良くないとは言うものの、ひとつの事業を任されている人間が、本当に全体最適を目指すことが出来るのか、そもそも、全体最適とは何かという問題もある。視野が狭くなっている人に、そのことに気づいてもらう上で、「全体最適」という言葉は便利なのではあるが、じゃあ全体最適をどのように実現するか、そこが明快でなければ役立たない。

一つの考え方としては、企業全体の課題を捉えなおして、課題や問題を整理して、徐々にブレイクダウンして考える、ということになるのだろうが、敢えてそのように考えずに経済学的にこの問題を解けないのかというのが、今回考えたいテーマである。

経済学を学ぶと、まず最初に教わるのは「完全競争市場」という概念である。完全市場は消費者の行動、企業の行動、消費者と企業が出会う市場に関してそれぞれ一定の仮定をおいてモデル化する。

消費者の行動については、「消費者はあらゆる情報を持っており、自分の欲求が最大限満足されるように合理的に選択を行う」、という前提を置く。また、企業の行動については「企業側もあらゆる情報を持っており、利潤の最大化という観点から合理的に行動する」と仮定される。さらに、市場については、買い手である消費者も、売り手である企業も多数存在して、もしある企業が現行の価格よりもちょっとでも高い価格をつければ一切売れず、また、消費者は現行の価格よりも安い価格では購入することが出来ない、という仮定が置かれる。要は市場に参加している企業も消費者も、今の価格を受け入れなければならない=プライステイカーであると考える。

そして「価格」は「財」に対する評価を反映しており、消費者が買いたいと思う総量と、企業が売りたいと思う総量にアンバランスが生じたときには、価格が需給を調整する、と考えるのである。消費者の買いたい量の総量(需要)が企業の売りたい量(供給)よりも多ければ価格が上がることで、需要を減らし供給を増やして量をバランスさせ、逆に需要が供給を下回れば価格が下がることで量をバランスさせる。

このように市場参加者が価格をみながら自分の行動=どれだけ買うか、どれだけ作るかを合理的に決めれば、社会全体としての希少な資源を最適に使う、ということが約束されると考えるのである。

別の言い方をすれば、個々の市場参加者が価格を見ながら自分の利益や効用を最大限にするように個別最適だけに専念して意思決定すれば、価格という変数を通じて、社会の全体最適が実現されるのである。

では、リーダーたちがある変数を見て個別最適を図れば、一企業として全体最適が図られるような、そのような変数がないのだろうか。これを考察すれば、経営のあり方や目標管理のあり方などが見えてくるような気がするのである。

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土井 哲



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