Leadership Insights / 財務分析を課題設定に活用する:その2

財務分析を課題設定に活用する:その2

(2005年03月15日)

前回に引き続き、損益計算書(P/L)について、課題設定を目的とした分析の視点で見ていきたいと思う。

セクション2:営業利益から経常利益(→本業以外での収益・費用を見る)

2つ目のセクションは営業利益~経常利益を括って、本業以外の部分でどのような収益や費用が発生しているかを見る。このセクションにおける重要な要素は2つあり、それぞれについて推移と比較の観点で意味合いを拾っていくのがよい。

1. 持分法利益/損失

株主総会、社員総会、取締役会、理事会などの法的な機関において、財務面、営業面あるいは事業方針の決定に対して重要な影響を与えることができる立場(=傘下に収める意図がある)にあるが、それを支配するに至ってはいない出資先企業(=持分法対象会社という)の業績を大掴みで捉えることができる。今話題のニッポン放送株を例とすれば、フジテレビの持ち株比率は39%強(3月14日現在の議決権ベース)、ライブドアが同45%強を保有しており、経営に対して影響を与える立場にあるが、どちらも支配権を獲得してはいない。また、商法241条の3という規定により、出資した企業/された企業双方で25%以上の株式を持ち合っている場合は議決権の行使ができないというルールになっているが、ニッポン放送はフジテレビ、ライブドアいずれに対しても25%以上の株式を保有していない。以上から、ニッポン放送はフジテレビ、ライブドア双方にとって持分法対象会社となる条件を満たしている。私見を述べさせていただければ、ニッポン放送は財務的な観点からは誰からも決定的な支配を受けない立場に置かれているとはいえ、実質的には2つの会社が大株主として強く影響を与えている状況であり、両株主が方向性をすり合わせず綱引きをしている状況が長引けば、ニッポン放送の経営はスピードが鈍り、ビジネス面で大きな決断もできず、企業価値が減少していく心配がある。誰にとってもメリットのない今の状況を両株主が漫然と見送るとは思えない。このようなメールマガジンを書いている身で恐縮だが、テレビなどメディアがM&Aのテクニカルな面を詳しく解説してくれたおかげで、これをお読みの皆さんもM&Aの概要や様々なテクニックについて、ご理解が深まったのではないだろうか。同時に、テクニックだけでは解決できないということも実感されていることと思う。M&Aの肝は「M&Aをやろうと思った動機」と「買収や合併後の文化融合の方法論」にあると思う。戦略としてM&Aを選択した理由と異なる文化をどう一つにまとめていくかについて、どちらの株主が納得感のある話をしてくれるか、筆者は関心がある。

2. 支払利息

営業利益に対する支払利息の割合を見ることで、儲けの実力に対する借金の大きさを判断する。本業で稼いだ利益はできるだけ本業に再投資し、「稼ぎの成長→再投資→稼ぎのさらなる成長」という効果的なフローを回していきたいが、稼ぎの多くが借金の金利として外部に流出してしまう状況では、それもままならない。このような状況は「稼ぎを増やす方向をより積極的に模索すべき」というメッセージと受け止め、売上高の源泉となる長期保有の資産(=B/S上の固定資産に加え、人材やブランドなど無形資産)の活用の方向性の幅、深さをしつこく考える時期にあると考えたほうがいい。

セクション3:経常利益から税引前利益(→結果として発生した利益/損失を見る)

3つ目のセクションは経常利益~税引前利益を括って、結果として発生した利益や損失の状況(=特別利益、特別損失)を見る。このセクションは事業計画上は想定していなかったものが結果として起きたということを示すセクションであり、意味合いとしては「たまたま」の産物である。投資家は事業計画ベースで投資対象の企業を評価するということを考えれば、実績との乖離の大きさはそのまま投資リスクという形になって表れるため、それが利益であっても手放しで歓迎はされない。むしろ、年度による変化が大きい場合は、事業計画の精度に疑問を持たれる。恒常的に多額のリストラ関連損失を計上しているケースなどは、保有している資産の活用が困難であることを自ら示しているわけで、損失処理は一時的なものだが、価値が減少した分を他の事業なり資産なりで稼ぐことを投資家からは求められる。年度年度のフローすなわちP/Lでは一時的な痛みに過ぎないと感じるかもしれないが、企業価値回復のプレッシャーは累積していくと考えるとよい。

P/Lを評価するもう1つの視点を紹介しておこう。P/Lは企業の利害関係者に対して提供した価値の大きさを示しているというものである。P/Lを上から順に見ていくと、まず売上高は客先に提供した価値の対価を集計したものであり、その下の売上原価は材料や完成品の価値を仕入先に支払ったり、モノを完成させるために提供された社員や外注先の役務の対価を支払っている。さらに販管費はその他の社員が提供した役務、輸送、不動産、オフィス機器などのサービスを提供する業者への対価を支払ったものである。営業外費用の項目では、有利子負債の貸し手に対して金利を支払い、税金とは国や地方に行政や法律などインフラ整備やサービスの対価を支払っていると解釈できる。残った当期純利益はここまでなにも報いを受けていない利害関係者である株主に全額還元される。この視点でP/Lを見た場合には、その企業がどの利害関係者にどのくらい価値を支払っているかを知ることによって、客先に提供した価値が、国・地域のインフラや調達した資金など事業の土台となる価値、モノの価値、人の価値、などどのような部分にウェイトをかけて築かれているのかがわかる。

この視点で損益計算書を評価する際には、その企業または事業がどのような資産を活用して売上高を獲得する仕組みになっているかを理解することに重点をおくとよい。すなわち、バリューチェーン(=価値の連鎖)の考え方を用いて、顧客に対して提供された価値を示す売上高がビジネス工程のどの部分への投資で支えられているかを捉え、効率化による利益創造(=コスト方向)あるいは積極投資による価値創造(=売上高方向)いずれの方向へ向かうのが適切かを検討するうえでの指針として利用する意味合いとなる。

最後に、株主に還元された当期純利益は、(1)配当金として現金で株主に支払う、(2)役員に対して賞与を支払う、(3)B/S資本の部の利益準備金の積み立てに使う(→会社は利益準備金と資本準備金の合計が資本の部の4分の1に達するまで、毎決算期の配当金や役員賞与など利益処分された金額の10分の1以上を積み立てなければならないという商法上の決まりがある)といった使途を株主総会で決定し、それらを支払った後に残りがあれば、これを未処分利益としてB/S資本の部の剰余金に貯めこむ仕組みになっている。ROE(=株主資本当期純利益率)という「株主の投資総額である資本の部に対してどの程度のリターンが上がったか」を見る指標が株主にとって重要視されているのもおわかりいただけると思う。

次回はバランスシートの分析の視点についてお話ししたいと思う。


玉木 昭宏


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