Leadership Insights / 財務分析を課題設定に活用する

財務分析を課題設定に活用する

(2005年02月15日)

前回はビジネス数字の世界を構成する3つの分野について、それぞれの意味合いや関連をざっと説明させていただいた。これから何回かに分けて、アカウンティング分野、特に財務会計領域について、課題設定を目的とした分析の視点を紹介したいと思う。

まずは投資家の視点を借りて、将来の事業活動方針やその計画の魅力度を判断する3つのポイントを確認しておこう。

(1) 成長に向けた重要な課題を企業自身が認識しているか、
(2) 課題に対する解としての戦略は十分に効果が期待でき、かつ
(3) 実現の道筋も明確に示されているか

上記(1)については、これから述べる2つの手法を活用し、その結果を勘案して答えを出すことになろう。手法1は現在まで十分な取り組みができていないと考えられる要素を炙り出すことだ。そのためには、いわゆる問題解決型のWhat構築手法を用いてこれにあたることになる。問題解決型のWhat構築とは、期待と現実のギャップを検証して課題を洗い出すことであり、これを財務の観点で適用すれば、過去の実績数字を扱うアカウンティング分野のキャッシュフローを頂点に、その構成要素であるB/S、P/Lに分解・掘り下げて、悪化しているものや水準が見劣りするものを問題数字として抽出し、その真因を課題として炙り出す(=財務分析)という意味合いになる。

手法2は、市場や競合といった業界の今後の動向をいくつかの事実を根拠に仮説として思い描き、自社が適応していくうえでの課題を洗い出すといった、戦略策定型のWhat構築アプローチになる。世の中の動向を広く洞察すると、新たな利害関係者の出現可能性を予見できたり、顕在する利害関係者が気付いていない期待やニーズも炙り出すチャンスが得られる。問題解決型と戦略策定型をバランスよくおこなって、重要な経営課題を見逃さないことがこのフェーズのポイントになろう。

また、上記の(2)および(3)については、(1)で明らかになった経営課題各々について解決に向けた戦略仮説をまずはアイディアとして発想し、課題に対する効果が期待値に届くのか、また、実行のための資源やスケジュールなどアクションプランは現実的かといった点を検証しながら、アイディアの見極めと内容の詰めを行なうことになるだろう。

ではここから、(1)の課題設定を目的とした財務分析の流れを紹介したいと思う。

株主価値や企業価値の源泉となるキャッシュの稼ぎ高を今後増やしていこうと思えば、バランスシートの右側にある借金を元手に設備や事業への投資を行ない(=バランスシート右側の借金から左側の資産へ移動)、その資産を活用して売上、利益を獲得し(=損益計算書)、それらをふたたび現金として回収する(=バランスシート)という一連の活動をよりスムーズに行なえる環境を整備する必要がある。そこで、この流れのどこかでキャッシュが滞り気味になっていないか、あるいは増え方が同業他社と比較して少なくないかといったことを損益計算書やバランスシートの分析を通じて明らかにし、その背景にあると考えられる事象を課題として抽出すればよい。まずは、皆さんにとって馴染みのある損益計算書から分析を始め、バランスシート、キャッシュフロー計算書へと移っていくことにしたい。

1. 損益計算書(P/L)~儲けの度合いを見る~

P/Lを分析する切り口はいくつかあると思うが、今回ご紹介したいのは、P/Lの項目を意味合いの異なる3つのセクションに分け、それぞれについて過去数年間の推移および同業他社との比較を行ない、自社にとっての課題を洗い出すアプローチだ。3つのセクションとは、(1)売上高から営業利益まで(=本業での儲けの度合いを見る)、(2)営業利益から経常利益まで(=本業以外の収益・費用の状況を見る)、(3)経常利益から税引前当期利益まで(=計画上想定しなかった損益の状況を見る)であり、順を追って説明したいと思う。

セクション1:売上高から営業利益(→本業での稼ぎ・儲けを見る)

最初のセクションは売上高~営業利益を一括りにし、主たる事業活動における稼ぎと儲けの状況を見るというものである。

1. 売上高の成長で引っ張っているのか、コストの圧縮で利益を叩き出しているのか?

営業利益の稼ぎ方には大きく3種類ある。1つ目は売上高の成長、2つ目は売上高に対する売上原価率の圧縮、3つ目は同じく売上高に対する販管費率の圧縮である。これら3つの数値について、推移と比較でそれぞれ以下の点を検証し営業利益の創出構造を読み取ることで、過去、利益をどう稼いできたか、それはどのような背景からか、今後どのように稼いでいくべきか、といったことを検討する材料となる。

(1) 推移による検証

・ 推移は過去5~7年程度を見るのが適当と思う。2~3年では前後の年度の状況との関係や傾向を把握するのに十分とはいえず、かといって10年、20年と長い期間では市場や経済、法規制、生活インフラなどがここ数年の環境と大きく異なっているなどして、情報収集や分析にかけるエネルギーに見合った有益な情報が得られないということも多い。
・ まずは売上高、売上原価率、販管費率について5~7年前と現在を比較し、増減の度合いを見る。なにが増えて、なにが横這いで、なにが減っているかを観察し、これまで売上高の成長で儲かっていたのか、コストの圧縮で儲かっていたのかを把握する。たとえば、売上高が増え、それに伴って原価や販管費も増えるということは自然な現象だが、売上の成長率より高いペースでコストが増加しているようなケースでは、単に効率が悪化してコスト高になっているか、あるいはさらなる成長に向けて人員の増強や設備投資を行なった結果、人件費や減価償却費の増加につながったと推察できる。前者の場合は、どの部分に効率の悪化が見られるかの検証と改善策の立案が急務だし、後者の場合は、人や設備への投資の目的を確認したうえで、計画通りの成果が得られるよう、必要に応じてアクションプランの見直しや推進体制の整備が必要になるだろう。
・ 次に、過去5~7年間をまん中の年度を軸に前半と後半それぞれ3~4年に分け、先ほどと同様に3つの数値の増減を見ることで、利益を創出するステージに変化が起きているかどうか見ておくのも大切だろう。たとえば、過去7年間、営業利益は拡大してきたが、利益創出の源泉が、前半の4年間は売上高成長によるものであった一方で、後半に入ると売上の伸びが鈍り、原価あるいは販管費の圧縮が利益創出の源泉になっているといった状況が読み取れたケースは、成長から効率というステージに事業が移行したという解釈ができる。これを背景としての事業環境に照らし合わせ、なにがステージの変化を誘引したのか、市場と自社の関係の変化によるものなのか、あるいは競合企業と自社との力関係の変化によるものなのかを見極め、その事業の取り組みの方向性を検討する材料とするとよいだろう。

(2) 比較による検証

・ 比較による検証では主として競合企業をベンチマークに、売上高、売上原価(=対売上高比率)、販管費(=対売上高比率)の3数値の水準の差から両者の特徴を見極め、自社の課題を炙り出す。ベースにある考え方として、広い意味で市場の環境は競合企業にとっても自社にとっても等しく与えられた所与の条件のはずであるから、互いがまったく同様のことを行なっていれば先述の3数値に差は出ない。が、実際には売上規模や原価率、販管費率に差が出るわけで、これはたとえば、地域や性別、年齢層などのセグメントのどこを主たるターゲットとするか、製品やサービスの特徴をどこに持たせるか、内製か外部調達か、どのようなチャネルを使って提供するか、プロモーションはどのように行なうか、など様々な部分で両者のやり方に違いがあることが結果としての数値に反映されたものと理解できる。したがって、差が大きい数値ほど両者の特徴が色濃く出ている部分と考えられ、こういった数値の背景を探っていくことで自社の特徴や課題が浮き彫りになる。バリューチェーンによる競合比較分析(=最終製品やサービスが顧客に提供されるまでのプロセスを描き、各プロセスにおいて競合他社と自社の特徴を書き込むことで、ビジネスシステム上の課題を炙り出す分析手法)と併せて活用するとよいだろう。
・ また、競合企業の事業セグメント毎に開示されている売上高、営業利益、総資産などを推移を追いながら、伸ばそうとしている(例:資産増、売上高増など)、縮小しようとしている(例:売上と赤字幅がともに縮小、資産減など)、選別している(例:売上減だが利益増など)といった方針を数字から見抜くことも重要な視点だ。

続きは次回にお話したいと思う。


玉木 昭宏


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