Leadership Insights / ビジネス数字を構成する3つの分野とその構造

ビジネス数字を構成する3つの分野とその構造

(2005年01月17日)

前回は資金調達の視点から財務とビジネスの関わりを見たが、今回はビジネス数字の世界を構成する3つの分野について、それぞれの意味合いや関連を見ていきながら、理解を深めていきたいと思う。

ビジネス数字の世界は大きく3つの分野に分けられる。1つはファイナンス(=財務)と呼ばれる分野。2つ目はアカウンティング(=会計)、そして3つ目がタックス(=税務)の分野である。事業家としてリーダーとして提示すべきビジョン、WHAT(s)、戦略といういわゆる3点セットとこれら3つの分野は互いが密接に関連しており、財務の世界観を理解するには各々の分野との大まかなつながりを確認することから始めるのがよいだろう。

まず、各々の分野の代表的な要素を洗い出してみる。まず、アカウンティング分野は財務会計と管理会計という2つの領域に分かれるので、それぞれの代表的なものを挙げてみたい。財務会計領域の典型例は有価証券報告書であり、株式を上場している企業を中心に1年間の実績を損益計算書、貸借対照表(バランスシート)、キャッシュフロー計算書といった財務諸表に記している。これら財務諸表以外にも、いくつかの明細表やそのような数字に至った背景となる経営環境や設備投資、資金調達などの状況、研究開発の内容、グループ企業の概要、さらには発行した株式数や主要株主などが記載されたページが追加され、全体で数十ページから百ページを超えるボリュームとなる。主たるユーザーは株主など投資家、金融機関、取引先といった企業の外にいる人たちである。一方、管理会計領域の代表例は顧客別出荷数量や粗利額、商品アイテム別在庫回転率、売掛金の年齢表(=いつ発生した売掛金がどのくらい回収残となっているかを見る帳票)、など無数にあるが、主たるユーザーは企業の内部の人たちであり、彼らの意思決定に最善の材料を提供することが目的だ。次に、タックス分野の代表といえば法人税等の申告・納付に関連した税務知識であり、企業にとっては義務の履行と節税という観点でこの分野を理解することが重要といえる。また、ファイナンスの代表例は株価やデリバティブ(=金融派生商品:為替や金利、原油などモノの相場、天候など絶えず変化する要素を対象に、将来のリスクを軽減・予防(=ヘッジ)する目的、あるいは投機的に資金運用を行なう目的で金融商品化されたもの)といったものであろう。

これら代表的な要素の関連を見るには、まず、時間軸の切り口でアカウンティングとファイナンスの関係を理解することから始めるのがよいと思う。アカウンティングは有価証券報告書にしても得意先別売上高にしても実績ベースの資料が中心であり、時間軸上の過去に位置する数字を主として扱う領域といえる。損益計算書、バランスシート、キャッシュフロー計算書の関係は、お金の収支を示すキャッシュフロー計算書を頂点に、その構成要素として、バランスシートが資産の活用度合いおよびそれを支える借金の構成を、損益計算書が資産を活用した結果の儲け度合いを、それぞれ表現している。よって、財務会計領域の根っこは損益計算書とバランスシートになると解釈できるが、これらは企業または企業グループ全体を総括した数字であり、事業や機能毎の業績を確認するには括りが大きすぎる。そこで、損益計算書、バランスシートの構成要素を事業や機能に分解して帳票としたもの、すなわち管理会計領域の数字が企業内で日々の事業活動の進捗状況を把握するために活用されている。したがって、ビジネスリーダーの視点でアカウンティングを活用する意味合いは、財務会計のキャッシュフロー計算書を起点にその構成要素となるP/Lで「儲け度合い」を、B/Sで「資産の活用度合い」および「それを支える借金の構成」を評価し、キャッシュフローへの影響度合いが顕著な要素について、管理会計領域の詳細な数字をトレースしたうえで、数字上の問題の所在を明らかにし、それら問題数字の背景にあると考えられる事象、すなわちビジネス上の課題(=将来に向けて取り組むべきこと)を炙り出すことにある。

一方、ファイナンスは時間軸上で現在から先のことを主として扱う数字領域であり、それは、株価が何を根拠に上がる/下がるのかを考えてみるとわかりやすいのではないだろうか。過去どれだけ実績を上げた、その結果どれだけ現金を貯め込んだといった事実は、過去の株価にすでに織り込まれており、今この時点から株価を上げる直接の材料にはならない。その企業が過去の実績を築いた土壌にある「強み」を活かせる分野の成長材料があるかどうかが今この時点から先の株価を変化させる主たる要因となる。株価とは企業から株主に将来還元される額に対する期待値を示したものであり、株主価値というパイの大きさで測る。ここでは大括りの理解として、将来にわたって企業が生み出すであろう価値のうち株主に分配される部分が株主価値と考えて欲しい。株主全員で分け合う株主価値というパイが大きくなれば一株に分配される価値も増えるので、株価は上昇するという理屈だ。また、株主価値の拡大を実現するには、株主価値を内包する、より大きな括りである企業価値を拡大することがその解と言われている。企業価値とは外部の資金提供者にとっての価値の総額、すなわち株主と有利子負債(=お金を借りる目的で調達した負債の総額。具体的には「借入金+社債+CP+その他利息付の負債」。)の提供者が分け合う価値のことである。そして企業価値の大きさは、主として将来のフリーキャッシュフローと呼ばれるお金の稼ぎ高によって決まる。ここらでようやく数字らしきものが出てきたが、要はファイナンスで言うところの「価値」とは、将来のキャッシュフローをモノサシに測るのだというイメージを持っていただければ、この時点の理解としては十分である。

以上から、企業が提示したWHATや戦略の魅力度は、結局はフリーキャッシュフローという稼ぎをモノサシに評価されることになる。時間は過去から将来に向かって流れており、連続性がある。その時間はキャッシュフローという数字がつなでいる。言い換えれば、アカウンティング分野とファイナンス分野とを橋渡しする数字はキャッシュフローである。

ここで、「キャッシュの稼ぎの大きさ=資金提供者にとっての投資の魅力度」という図式から、資金提供者に還元されずに社外流出してしまう税金を「節税」という取り組みによって必要最小限に抑えることも株主価値・企業価値経営には重要であることがわかる。具体的には、M&Aやグループ再編などリストラクチャリングに関連した税務、新規事業や子会社設立に伴う税務など、WHAT構築や戦略立案との関連が深い要素に加え、税効果会計、連結納税制度、移転価格税制(=関係会社間の国際間取引において、取引価格を操作して納めるべき税金を少なくしたとみなされた場合に、あるべき税金を計算して払わせる趣旨の法律)、といった守りの要素を中心にタックス分野の概要を理解しておくことがビジネスリーダーには必要であろう。

ここまでをビジネスの側から整理してみたい。事業活動におけるWHATや戦略は将来を向いた課題解決への取り組みであり、そこから得られるであろうフリーキャッシュフロー総額が企業価値、株主価値の源泉となる。取り組むべき課題を設定するには主としてアカウンティング分野の実績数字を分析し、問題数字の特定とその背景にある事業環境を明らかにする。これがアカウンティング(=これまで)からファイナンス(=これから)へと流れるビジネス数字の構造である。

次回は、アカウンティング分野、特に財務会計領域の中身について、課題設定を目的とした分析の視点で見ていきたいと思う。


玉木 昭宏



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